生活をどう変える?「防犯カメラの進歩」がもたらすメリット・デメリット

近年、街中や建物に設置された防犯カメラの数が増えています。防犯カメラだけではなく、車内外の様子を撮影するために車に取り付けるドライブレコーダーの普及も進んでいます。このような「防犯カメラ」は、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか? 監視社会とプライバシー保護についての研究を進めてきた明治大学情報コミュニケーション学部の江下雅之先生にお聞きしました。

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撮影が当たり前になった、私たちの社会

2019年8月に茨城県の常磐道で、あおり運転で進路をふさいで車を停車させ運転手に暴行し、けがをさせた男性が逮捕されました。

傷害容疑以外に、停止義務のない場所で車を止めさせたとして強要容疑でも逮捕されたのですが、このようなケースは通常、証言だけでは逮捕が難しいことが多いといわれています。

逮捕できたのは、被害者の車に設置されていた、車内外の様子を撮影するドライブレコーダーの動画のおかげでした。

通常は交通事故時の状況などを記録するもので、いわば街中の防犯カメラのような役割を果たすものなのですが、思わぬ形で活躍したのです。

このように、いま私たちの生活は絶えずカメラの目によって見られ続けているといえます。

江下先生は、防犯カメラなど監視の目が街中に増えたきっかけは、2001年9月に起こったアメリカ同時多発テロだと指摘しています。

「その後アメリカは、テロの予防にはテロリストたちの普段の行動の記録と分析が必要と結論付け、世界規模で防犯カメラなどによる社会の監視が強まるようになりました」(江下先生)

日本でも02年ごろからその傾向にありましたが、本格的に防犯カメラが普及したのはこの10年ほどの間です。

技術の進歩によるカメラの小型化やコストの低下により、飛躍的に防犯カメラの設置台数が増えることになったのです。

警察主導で設置した街頭防犯カメラ数と刑法犯罪認知件数の推移

1911p096_01.jpg※「警察白書」より作成。各年3月末の数字

警察主導で設置した全国の街頭防犯カメラの台数だけを見ても、上の表のようにこの10年ほどで4倍以上に増えています。

単純には結び付けられませんが、同時期の警察の刑法犯認知件数(警察が犯罪の発生を確認した件数)は上の表のように減少傾向にあり、防犯面で一定の効果があったことがうかがえます。

普及が進んだもう一つの理由として、私たちがカメラで撮影されることに対し慣れ、当たり前になったということが挙げられます。

2010年代からスマホが爆発的に普及し、若い世代を中心にスマホのカメラで身の回りを撮影することが日常になりました。私たちの撮影に対する心理的ハードルは、以前と比べ下がっているのです。

「2000年代初頭は、カメラで撮られるということを嫌がる人もまだ少なからずいました。しかしいまは、カメラを避けて生活する方が難しい社会になっています。逆に、防犯カメラに見守られているという安心感を抱く人の方が多いのではないでしょうか」(江下先生)

いまやスマホのカメラがない生活は考えられないという人もいるでしょう。

また、街中やエレベーターなどの防犯カメラは、女性の一人歩き時に安心感をもたらしてくれます。

前述のドライブレコーダーも、交通事故時の状況証明において強い味方になります。

「プライバシー保護の問題よりも受ける利益の方が大きいと、多くの人が考えるようになったのでしょう」と、江下先生は分析しています。

「見守る」だけではない防犯カメラのこの先

ここまで防犯カメラの利便性について触れてきましたが、当然注意すべき点もあります。

例えばこの先、防犯カメラの画質がさらに上がれば、「画面の端に小さく映った人物でも、解析すれば高い精度で個人を特定できるようになります」(江下先生)。

防犯や犯罪捜査の観点からは喜ぶべきことですが、これが落とし穴でもあるのです。

私たちは運転免許証を持っている場合、更新のため、数年ごとに最新の自分の画像を警察に提供しています。パスポートも同様です。

これらの画像と防犯カメラの動画を用いれば高い精度で人物を特定できるのですが、背丈、顔つき、服装などが似た他人と間違えて認識される恐れは残ります。

「その場合、誰かと一緒にほかの場所にいたことなどが証明できなければ、精度が増した分、映っているのが自分ではないと証明するのが難しくなります」(江下先生)

警察など捜査機関は防犯カメラの動画などの情報を持っているのに対し、私たちは自分がそのときどこにいたかの細かい記録を持っていません。

「この情報格差を『情報の非対称性』と呼んでいます。今後、社会問題になるかもしれません」と、江下先生は危惧しています。

この「格差」を象徴するような事件が起こりました。

愛媛県松山市で、タクシーから降りる際に売上金を盗んだと疑われた20代の女性が、2019年7月に誤認逮捕されてしまったのです。

タクシーに設置されたドライブレコーダーに映った犯人に女性が似ていたという「思い込み」が原因の一つでした。

多くの人は、自分が犯罪の容疑者と間違えられるようなことは想像もしていないでしょう。しかし、この先増えていくかもしれない問題なのです。

防犯カメラは私たちの生活を〝見守って〟くれる目です。しかし同時に、私たちを〝見張る〟目でもあることを覚えておきたいですね。

こうなる!暮らしへの影響

▽防犯カメラの台数が増えている。ドライブレコーダーもいわば防犯カメラです。
▽犯罪の摘発や、海外ではテロ予防にも役立っていて、防犯効果が期待できるものです。
▽かつてはプライバシー保護の問題を指摘する声もありましたが、いまは少なくなりました。
▽今後もさらに設置台数が増え、機能も向上していくことが予想されます。
▽ただし、機能が向上し信頼性が増すと、他人と誤解されたときに弁明するのが難しくなるでしょう。

構成・取材・文/仁井慎治

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江下雅之(えした・まさゆき)先生

1959年生まれ、神奈川県出身。エセック経済消化大学院大学情報システムマネージメント研究科修士課程修了。専門は社会学。著書に『監視カメラ社会 もうプライバシーは存在しない』(講談社+α新書)など。

この記事は『毎日が発見』2019年11月号に掲載の情報です。

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