多くの人にとって人生で一番大きな買い物である「家」。老後の過ごしやすさなど、いろいろ考えて建てたのに、しばらく暮らすと不便な部分がチラホラ...。その理由の一つは「間取りのプランニング不足にある」と現役工務店社長・窪寺伸浩さんは言います。今回は、『いい住まいは「間取り」と「素材」で決まる』(あさ出版)から、「家と人生の関係、理想の間取り」について連載形式でお届けします。
【玄関】でゆとりとおくゆかしさをあらわす
玄関は、まず、その位置をどこにするかが最も重要です。なぜならば、玄関を扇のカナメの位置に置いて、玄関にホールを設け、そのホールから各部屋へ行けるよう、間取りを工夫すべきだからです。スペースに、たっぷり余裕がある方というのは、そうはいらっしゃいません。狭いスペースを有効に使うには、まず、廊下をなくすことです。
ここでは、「玄関は扇のカナメの位置」と覚えておいてください。ところで、昔から、「玄関は辰巳の方位」つまり、「東南の角」と言われてきました。これは陰陽五行説によって言い伝えられたもので、それなりの立派な理由があります。
しかし、それにはこだわる必要がないことを、はっきり申し上げておきます。東南の角は玄関以外に、持って来たいものがたくさんあります。家庭生活にとって、一番重要な場所は何でしょうか?
それを充分に考えた上で、玄関より大切なもの、例えば、台所・食堂・茶の間などの位置を優先して考えるべきです。
玄関の位置を決めるには、他にも道路の位置、敷地の形、隣近所との関係など、いろいろな条件も合わせて考えておかなければなりません。
さて、「玄関や門構えは、その家の家柄を示す」と言われた時代がありました。封建制が支配していた頃の話です。貴族や武士の家は外から襲って来る敵に備えたり、また、虚勢を張る意味からも、塀をめぐらし、頑強な門を構えました。地方の豪農もそれにならい、門を構え、小作人たちを牽制しました。商人の家も間口を広くして、店の構えを強調したのです。つまり、「構え」によって人を威圧し、そうすることで格付けをしてきたのです。
しかし、第二次世界大戦のあと、日本を吹き抜けた民主主義の嵐は、欧米の自由思想を定着させ、日本の家屋の塀を、生垣やフェンスに変えていったのです。開放感のあるオープンな家、とてもいいことだと思います。
こうなってくると、大袈裟に構えた玄関など、何の意味もなくなってしまいます。訪れる人を極度に緊張させるような玄関の構えは、決して立派とは言えません。誰もが気楽に訪問でき、しかも気軽さの中に、自然と調和したおくゆかしさがにじみ出るような玄関こそ、良い玄関といえるのではないでしょうか?
東南の玄関は、明るく、いつもすがすがしく、訪れる人の印象が良いので、繁栄の基盤となります。
住まいが仕事場であったり、お客様の多い方の場合は、辰巳の方角の玄関がいいかもしれません。しかし、一般の方の場合は、できるだけ明るく、適当な広さがあり、通風が良ければ、どの位置でも構いません。ただし、直射日光が当たると、扉が傷み、玄関の内部も傷みます。それに、明る過ぎは軽薄になり、品性を落とすことになりますので、充分注意が必要です。
平和で、心豊かな家庭を偲ばせる玄関、それが理想です。玄関は虚勢を張る場ではないことは、すでに申し上げました。しかし、家族の世間に対するプライドを示す場であることも、また、事実なのです。その意味で、玄関をあまり軽く考え過ぎることも危険です。大袈裟な構えはもちろん不要ですが、正しいプライドの表現の場であるべきです。このようなところに、"無駄の効用"があるような気がします。
玄関の位置を決めるに当たって、家相学にあまりこだわる必要はありません。ただ、玄関の向きと門の位置との関係については、できるだけ気を配ってください。
これには、道路との関係や、敷地の形も大きく影響してきますが、それらの条件をいろいろ考え合わせて、できれば門から玄関の距離、つまりアプローチを長めにとって、ゆとりを表現したいものです。また、アプローチの環境にも気を配ってください。
訪れる人に心のゆとりを与え、おくゆかしさを感じさせることによって、あなたの人柄を鮮やかに印象づけることができます。
玄関には広さもほしいのですが、天井の高さもほしいところです。屋根裏を利用して天井を高く見せたり、2階の床をはずして、2階の天井まで吹き抜く場合もあります。吹抜けの上手なつくり方は、玄関の設計の妙味の一つとも言えるでしょう。無理なく、自然な形で、吹抜けをつくりたいものです。特に注意しなければならないのは、「西日や南の太陽の直射」で、これが当たると、夏は玄関が温室のようになってしまいます。
また、吹抜け窓の拭き掃除や、通風のための開け閉めも、充分に考えておく必要があります。
その家の「主人の顔」ともいえる玄関です。いろいろな実例などを見ながら、充分に検討し、研究していただきたいものです。
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