【虎に翼】「詰め込み過ぎ」批判も覚悟の上か...現代社会で山積みの問題を朝ドラで描く脚本家・制作陣の思いを痛感

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毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「脚本家・制作陣の思い」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

 【虎に翼】「詰め込み過ぎ」批判も覚悟の上か...現代社会で山積みの問題を朝ドラで描く脚本家・制作陣の思いを痛感 pixta_55612373_M.jpg

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第21週「貞女は二夫に見えず?」が放送された。今週含めて残るは6週。このくらいの時期になると、やることがなくなってくる作品も多数あるのに、まさかの尺足らず問題すら起こっているように見えるのが『虎に翼』の稀有な点だ。

史実によれば8年にわたる原爆裁判が進む中、今週は直明(三山凌輝)の結婚、寅子(伊藤沙莉)と星航一(岡田将生)の再婚と夫婦の姓の問題、LGBTQ、性転換などのジェンダーの問題が描かれた。

轟(戸塚純貴)から恋人・遠藤(和田正人)を紹介された寅子は、航一にプロポーズされたものの、迷っていることを轟とよね(土居志央梨)に話す。そこで寅子は、こんな発言をする。

「子どもを作るわけでもない。支え合わなくても経済的にも自立し合っている。それぞれの家族もいる。それなのに結婚する意味を見出せないと言うか......」

 「結婚」という制度の外側にいる轟たちの前でそれを言う寅子。悪気なく自己チューで無神経でナチュラル上から目線なのは、ある意味ど真ん中をいく"朝ドラヒロインらしい"ところだ。しかし、何が悪かったかは理解していないものの、轟の表情に、自分の言葉が傷つけたことを感じ、反省する。

悩む寅子に、航一はプロポーズした理由について、婚姻自体が永遠の愛を誓うわけではなく「永遠を誓わない愛」であると気付いたことを法曹らしく説明する。「なるほど」と航一の口ぐせで返す寅子。

猪爪家では直明の結婚式の準備が着々と進められ、星家でも寅子と優未(毎田暖乃)を迎える準備が進むが、寅子はそこで結婚に付随する大問題に気付く。結婚したら「夫または妻の名字を名乗る」、つまりどちらかは名字が必ず変わるということ。それは個人の尊厳や平等とかけ離れているのではないか、と。

星姓になると、亡き夫・優三(仲野太賀)のことを含め、「佐田寅子」として生きてきた自分が失われる。佐田になった際は社会的地位を得るため、積極的に「猪爪寅子」を捨てた寅子が、2度目の結婚で初めて姓が変わることで失われるものに気づいたわけだ。夢の中に現われた裁判官寅子と、学生時代の猪爪寅子、星姓になった寅子など、5人のイマジナリー寅子が出てくる演出の遊び心と、何より演じ分ける伊藤沙莉は素晴らしい。しかし、寂しいのは、視聴者の多くがおそらく女学生時代の「はて?」満載の寅子に一番好感を抱き、懐かしく感じてしまったであろうこと。

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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