【虎に翼】「女性は働く必要がない」の意見に対し...小橋(名村辰)の成長ぶりが熱い! 一方で気になる"寅子様"ぶり

【前回】「詰め込み過ぎ」批判も覚悟の上か...現代社会で山積みの問題を朝ドラで描く脚本家・制作陣の思いを痛感

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「気になる"寅子様"ぶり」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

 【虎に翼】「女性は働く必要がない」の意見に対し...小橋(名村辰)の成長ぶりが熱い! 一方で気になる"寅子様"ぶり pixta_97180463_M.jpg

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第22週「女房に惚れて商売繁盛?」が放送された。

個人的に今週注目したのは、小橋(名村辰)の成長ぶりである。そもそもツルツルの童顔にちょびヒゲの「大人」ぶりにズッコケそうになったが、実際、童顔男性の悩み解消にヒゲというアイテムは選ばれがちなので、そこは案外リアルかもしれない。

寅子(伊藤沙莉)は弟の直明(三山凌輝)から頼まれ、司法に興味を持つ中学生たちのための勉強会を開催、小橋と稲垣(松川尚瑠輝)も会に参加した。その生徒のひとりが、女性は働く必要がない、そっちのほうが得ではないかと疑問を投げかける。困惑する寅子らに対し、小橋のみが

「できる男と比べられるのも嫌なのに、さらにできる女とも比べられる! がんばらなくてもいいのにがんばる女たちに無償に腹が立つ! そう、分かる、分かるよ」

と同調する。

そして、この先もずっとできる奴らと比べ続けられることになると続ける。「平等」な世の中とは、損することも多々ある、しかし、そのいらだちを弱そうな相手を選んでぶつけていないかと指摘する。

「この先どんな仕事をしてどんな人生を送ろうと、弱そうな相手に怒りを向けるのは何にも得がない。お前自身が平等な社会を拒む邪魔者になる」

格差のある社会の中で、弱者がより弱者を叩く。これは現代にも直結する社会の構造である。小橋の指摘が耳に痛かった視聴者も存在したのではないか。

そのように同調する小橋が「先生や周りがかまったり優しくするのは、優等生かコイツみたいな不良で中途半端な俺たちはいないも同然」と呼びかけたところに小橋のこれまで歩んできた人生と立ち位置を感じられた。登場時の自己紹介的場面で、稲垣が少年部部長に出世したいっぽうで小橋は家裁の「ヒラ判事」どまりで、二人の間に差がついていたことからも、小橋の言葉が自身の経験に基づいたものであり、できる奴らと比べられ続けてきたからこそ不良生徒の気持ちに寄り添うことができることがよく分かる。

明律大学時代、小橋は女子部の寅子たちを率先して茶化したり妨害したりし、小競り合いの末、よね(土居志央梨)に股間を蹴り上げられるような存在だった。どこか小物感漂うものの、成績は優秀だからこそ、轟(戸塚純貴)たちよりも先に試験に合格していた。それでも、突出したものがないのか、「中途半端」扱いになり、生きにくい部分もあったのだろう。のちにライアン(沢村一樹)のもとで寅子と同じ職場で再会したときも、時折寅子と衝突するような場面もあった。

「一番になれなくてもさ、お前のことをきちんと見てくれる人間は絶対いるからさ」

そう小橋が語りかける言葉は、彼の人間的成長が感じられる熱い場面だった。

そんな小橋の言葉に感激しつつも、
「とってもいいお話だったわ!」
という寅子の言い回しが、どこか〝上から目線〟のようなのが少し気になってしまう。

このセリフに限らず、社会進出や自立どころか高い社会的地位まで獲得した寅子の成長を演出するものだと思うのだが、どうも嫌なやつ「寅子様」になってしまったように感じ取れてしまうのである。大人寅子は無意識に上に立ってしまうところがあるのか、これは小橋たちとの関係性に限らず、花江(森田望智)や航一(岡田将生)らとの会話でも自分が中心になってしまうところが悪い意味でテンプレート的朝ドラヒロインのようにも映る(そういったキャラクター性まで意図した言い回しの演出かどうかはわからないが)。

今週のストーリー上大きな柱は、そんな寅子様・優未親子と星家との関係性についてだ。

前週、現在の結婚制度が自分たちの幸せにそぐわないならと、婚姻届ではなく遺言書を交わし、「夫婦のようなもの」になろうと誓い合った寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)。この「夫婦のようなもの」と寅子の娘・優未(毎田暖乃)の3人は、星家で同居生活をスタートさせる。

「のようなもの」を提案した航一が、出会ったころから自分の家族、子どものことを全然積極的に語ろうとしなかったことがずっと気になっていた。寅子が優未の話をしても、「うちはこうで」という、普通ならありそうな流れで乗っかることは全然ない。お互いパートナーと死別し、やましい部分などないだろうに、どこか隠したいのか語りたがらないのか。悲惨な展開が予想されることが分かっていながら開戦を止められなかったというトラウマをずっと引きずっているのも分からないではないが、ことあるごとに自分の「お気持ち表明」にはわりと積極的で、航一という男性にはどこか幼稚さ、大人になれていない部分を感じてしまう。残された子どもたちときちんと向き合ってこられなかった。「のようなもの」とは、そんな航一によるある種の「逃げ」、もっといえば詭弁で置き換えた提案ではないだろうか。

以前から星家の描写にはどこか陰鬱さも漂う、ぎこちなくギスギスした空気はあったが(それこそある意味もともと「家族のようなもの」であったかもしれないが)、今週はついにのどか(尾碕真花)の不満が爆発することになる。「夫婦のようなもの」を「家族のようなもの」に発展拡大しようとしても、互いに古い傷、いい思い出の深い部分を干渉しないことでたどりついた二人とはまた事情が全然違うだろうからうまくいくはずがない。「のようなもの」で実子との距離も縮められると甘いことを思ったのだろうか。

最終的に航一が、子どもに「甘えられない」と言い放ったことにも、え、なんで甘える側なの? 逆じゃないの? となり、やはり航一は自分のことしか考えられない人間なんだということをあらためて実感することになってしまった。

また、明るくない、干渉し合わない、仲が悪くはないけれどほどほどの距離がある、本来の星家というのもひとつの家族のあり方だと思うが。

そのいっぽうで、星家の伝統である決着法「麻雀」対決を提案した優未の勇気と大胆さには心動かされるものがあった。麻雀の対局中、父譲りの緊張による腹痛とも戦うことになる優未。思えば父・優三(仲野太賀)も普段は心優しく気弱なところもあり、すぐに腹痛を起こすようなところがあったが、直言(岡部たかし)の収賄容疑による家宅捜索のため猪爪家に乗り込んできた検察に対し、「靴は脱いでください!」と、普段の様子から一転、毅然とした態度で言い放った姿にも重なる。比べるようなものでもないが、優三の不在をついつい感じてしまうことになった。

結局、この腹痛によって対局は中断、その後のどかと長男の朋一(井上祐貴)らが本音を吐露し、継母にあたるものの「おかあさん」と呼ばれずこともなく、お手伝いさんのような百合(余喜美子)との距離も、本音を語ってもらうことで、なんとなく星家のギスギスは一定の着地をみせ、風通しが以前よりよくなった「家族のようなもの」になれたようだ。

とはいえ、優未にずっと寅子の理解者兼保護者役を押し付けていることも気になるところはある。

さて次週は、これまで少しずつ準備が進められてきた原爆裁判がいよいよ本格的に描かれる。本作の法曹パートクライマックスかもしれないこの裁判上でのやりとり、重い展開になることは間違いない裁判だが、ここしばらくのモヤついた気分を忘れさせてくれるような内容になることを期待したい。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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