嫉妬や焦りにまみれたら・・・知っておきたい「泥水入りのコップの話」

「体の不調」や「老後の貯蓄」などの心配事は、誰もが抱えているはず。考えすぎて心の重荷を増やす、嫌なサイクルに陥ってしまっている人もいるかもしれません。そこで取り入れたいのが「禅の習慣」。今回は、google本社で禅の講義を行う話題の禅僧による、「心配を取り除くための"ちょっとした思考のクセや生活の習慣を変える方法"」について、連載形式でお届けします。

※この記事は『心配事がスッと消える禅の習慣』(松原正樹/アスコム)からの抜粋です。

嫉妬や焦りにまみれたら・・・知っておきたい「泥水入りのコップの話」 pixta_42458626_S.jpg前の記事:スマホ&テレビはOFF!人生が変わる「心全開の食事法」/禅の習慣(8)はこちら

 

■禅の習慣
私たちの心は泥水の入ったコップ。静かに置けば自然と視界が広がり答えが見つかる

心配、不安、焦り、悲しみ、嫉妬、怒り。湧き上がってきた感情に振り回されたり飲み込まれたりしそうなときは、これからお伝えするコップの話を思い出してください。

透明なコップに水と土を入れ、箸でグルグルとかき混ぜた様子をイメージしてみましょう。かき混ぜた途端にコップの中の透明度は失われ、コップを目の高さまで持ち上げ、どの角度から覗き込んでみても、中に何が入っていたか判別が難しくなります。

ここで一度、平らな場所にコップを静かに置いてみましょう。

かき混ぜられて渦を巻いていた泥水は、少し待っている間に少しずつ波が静まっていき、落ち着きを取り戻します。

そして、時間が経つとともに、重たいものは下へと沈んでいき、コップの中身がはっきりとわかるようになります。

このかき混ぜられた泥水こそが、私たちの心の状態です。

私たちの日常はいつなんどきも感情とともにあり、手放すにしろ執着するにしろ、湧き上がってくる感情に対処することを繰り返しています。

つまり、私たちの心は、かき混ぜられたコップの中の泥水のように混沌(こんとん)としているのです。

いつも泥水のままで視界がクリアになる瞬間がなければ、自分の本心がどこにあるのか、何を大切にしたいと考えているのか、湧き上がった感情の何に反応して心が乱されているのか、わからなくて当然です。

だから、いったんコップを置き、心を鎮めることが必要なのです。

実は、このコップを置くという動作こそが、坐禅です。

坐禅のやり方はいくつかありますが、基本となるのは、坐禅という字の通り安定した土(大地)の上に座ることです。

まずは座って、コップを置くのと同じように、心を落ち着けます。心の波が穏やかになってくると、コップの中身が水と土であったとわかったように、自分は今いちばん何が気がかりであるのかや、何を思っているのか、何を心配しているのか、といったことがわかってきます。

さらに、中身は何かと覗き込むと、泥の中には枯葉や小さな虫が混ざっていたことにも気づきます。日常では見落としていた、自分の本当の気持ちに出会うようなイメージです。

心が混沌とした泥水のときには見えなかったものを見ようとする。これが、坐禅です。

私は授業や講演の際、坐禅を身近に感じていただきたくて、坐禅の説明にこのコップの例を引き合いに出すことがよくあります。

かつてこの話を聞いた女性から、最近になり、「実はあのときコップの話を聞いてから、とても気持ちがラクになったんです」と打ち明けられました。

ふと不安がよぎったとき、イライラしたとき、悲しいとき、強い感情が押し寄せてきたときに「大丈夫。私は今、泥水の中にいるだけ」と思うことで気持ちが落ち着き、感情の暴走を防げるようになったといいます。

感情のコントロールはできる。それが真実だと教えてくれるエピソードです。

 

今は情報の流れるスピードも速く、すぐに答えを求めようとしてしまいがちですが、静かにコップを置いたら、答えが出るまでそのままのんびり待ちましょう。

坐禅がすべてを教えてくれるわけではありません。坐禅をし、自己と対話することによって心が整理され、他者とのつながりを感じ、自分自身や自分の人生を大切にできるようになっていきます。

それには、少し時間のかかることもあります。少しずつでよいので、続けることが大事です。今、ほしい答えが、あとになってわかることもあります。

答えになかなかな出会えないときは、泥水の土の分量が多いのかもしれない。そんなふうに考えて、コップの中身がクリアになるのを気長に待ちましょう。

 

次の記事「姿勢は?目線は?毎日3分で心落ち着く「坐禅瞑想」のやり方/禅の習慣(7)」はこちら。

 

 

松原正樹(まつばら・まさき)

1973年、東京都生まれ。千葉・富津市のマザー牧場に隣接する臨済宗妙心寺派佛母寺住職。アメリカのコーネル大学東アジア研究所研究員。ブラウン大学瞑想学研究員。ベストセラー『般若心経入門』の著者で名僧の松原泰道を祖父に持つ。コーネル大学でアジア研究学の修士号、宗教学博士号を取得後、カリフォルニア大学バークレー校仏教学研究所、スタンフォード大学HO仏教学研究所を経て、現在に至る。グーグル本社で禅や茶道の講義をするなど、マインドフルネス界からも注目を集めている。ニューヨーク在住。アメリカと日本を行き来しながら、禅とマインドフルネスの橋渡し的存在として、国籍や人種、宗教を問わず人々の「心の救済」にあたっている。

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『心配事がスッと消える禅の習慣』

(松原正樹/アスコム)

ニューヨークを拠点にスタンフォード大学、コーネル大学、グーグル本社などで禅的な生き方、心をラクにする瞑想法を指導している、いまもっとも注目すべき禅僧のデビュー作。不安・恐れ・孤独感・心の苦しみがスッと消える「禅的生活」のススメが、分かりやすく丁寧に語られた話題の一冊です!

この記事は書籍『心配事がスッと消える禅の習慣』からの抜粋です

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