5月5日(日・祝)は端午の節句。この日はしょうぶ湯に入る習わしがありますが、なぜなのでしょうか? その由来やしょうぶの効能を、北里大学薬学部 生薬学教授で、同大学の附属薬用植物園の園長も務める小林義典先生にお聞きしました。
刀に似た形と特有の香気で邪気を払います
端午の節句は、もとは中国から伝わった行事。旧暦の5月(新暦の6月ごろ) 初めの午(うま)の日に、季節の変わり目の気候に負けないように、湿地などで採ってきたしょうぶで身を清め、邪気を払う日でした。鎌倉~室町時代になると、「しょうぶ」の音が「尚武(武道や武勇を重んじること)」と同じこと、また、葉の形が刀に似ていることから、武家が大切にする男の子のための節句となりました。
端午の節句に欠かせないしょうぶ湯もその名残。生によると、「東洋医学では、体内の気や血液が滞ると、動脈硬化など心血管系の障害につながると考えられています。しょうぶには滞った気を巡らせて血流を促す『行気(こうき)』、ふさがった気の通りをよくする『通竅(つうきょう)』の効果があるといわれています」と、小林先生。
特に根茎部分の「菖蒲根(しょうぶこん)」は薬効が高く、精油成分が約3%含まれています。主な成分は、鎮痛や抗菌の作用を持つオイゲノール、健胃などの作用を持つアサロンなど。古来、インドやヨーロッパ、中国などでも重要な薬草として珍重されてきました。
しょうぶは、我が国でも長く大切にされてきた植物。小林先生によると、「万葉時代には宮中に参内する諸臣(しょしん)の冠に飾ったり、薬草を詰めて柱に飾る『薬玉(くすだま)』に葉を添えたりしたほか、ちまきを結ぶのに使われていたという説もあるんですよ」。
古人にならって、爽やかな香りとみずみずしい色を楽しんでみませんか。
健胃や鎮痛などを促す薬効成分に注目!
α-アサロン(※)
香りのよい精油成分で入浴剤などに使用。健胃、鎮痛、心血管系障害防止、抗酸化、抗うつ作用など。
β-アサロン(※)
精油成分の一つで、α-アサロンとほぼ同じ。認知症治療・予防の効果の研究も一部で行われています。
※しょうぶの主な精油成分であるα-アサロン、β-アサロンは、体内で発がん物質を生じる「前発がん物質」でもあるが、実際には体内で急速に分解されるので、多量に用いなければ発がんのリスクは低いとされています。
オイゲノール、メチルオイゲノール
丁子(ちょうじ)の香りの精油成分。健胃、抗菌などの作用を持ち、オイゲノールは歯科用鎮痛剤にも使われています。
セスキテルペン、モノテルペン
芳香成分。前者はしょうぶ独特の香りを示すショーブノン、後者はレモンの香りのリモネンなどを含んでいます。
◆しょうぶの根茎を乾燥させた「菖蒲根」
ヨーロッパでは「カラムス根(こん)」と呼ばれ、伝統生薬の一つ。また、漢方薬では同属植物のセキショウの根茎「石菖根(せきしょうこん)」が古くから生薬の「菖蒲」として使われています。漢方薬店などで入手できます。
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取材・文/岡田知子(BLOOM) 写真/PIXTA デザイン/ohmae-d
参考文献/白井明大『暮らしのならわし十二か月』(飛鳥新社)