定年後に母の介護をしながらパソコンを始め、2016年からはアプリの開発を開始。17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待されたITエヴァンジェリストである若宮正子さんに「デジタル社会に対応しなきゃいけないの?」をテーマにお話を聞きました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。
苦手意識は思い込みかも。
少しずつでもいい、
自分を変えると楽になります。
仕事柄、多くの方から「デジタルができるようにならなきゃいけないのでしょうか?」と聞かれます。
私の答えは「別にアナログ人間でも生きていけるとは思うけれど......」。
その後に、「生きづらいし、今後ますます生きづらくなるでしょうね」と続けます。
時代の流れが速すぎてついていけないという方の気持ちは、よくよく理解できるのですが、なんとかしがみついてでも時代の波に乗らなければ、一人ではできないことだらけになってしまうのは明らかです。
例えば、新幹線のチケットを購入したいと思っても、JR東日本は2025年までに「みどりの窓口」を約7割削減すると発表しました。
飛行機のチケットは、以前なら電話予約することができましたが、今はWEB予約が一般的です。
WEB予約の仕方ですらも、インターネットで調べるのが主流。
新聞やテレビのニュースで世の中の大きな流れを知ることはできても、個人的に知りたい情報はアナログ人間には入手することができません。
情報難民は、病気になった時や経済的な支援が必要な時などに、為す術がなくなり、ときには死活問題に発展することもあるかもしれません。
孤独感や疎外感も回避したいところです。
先日、ある集いの会で幹事さんのなり手がないという話を耳にしました。
50人のメンバーのうち、48人はLINEで開催地の地図の送付や日時の変更の連絡も一斉にできるけれど、あとの2人はアナログ人間。
すると、個別に電話をかけたり、地図の郵送をしなくてはならないので、ボランティアでやるにしては負担が大きいということなのです。
となると必要最低限でもいいから、世間の人たちと足並みをそろえていなければ、人とのつながりが途絶えてしまうことにもなりかねません。
周知のように今やスーパーにもセルフレジが導入されています。
世の中から対面でのやり取りは消えつつあるのです。
昔は今日の夕飯は何にしようかしら?なんて思いながら商店街を歩いていると、魚屋さんの前で、「今日はいわしが安いよ」なんて威勢のいい声が聞こえてきて、調理法まで教えてくれました。
そんな時代が懐かしいなぁと私も思いますけれど、時代の変化には逆らえない。
そうである以上、自分も進化するしかないのです。
それに世の中の進化は、今に始まったことではありません。
電話だって、瞬く間に自宅の固定電話から携帯電話へと移り変わりました。
首都圏のJRで本格的に自動改札機が導入されたのは1990年頃だと思います。
最初は戸惑っていた人も今は普通に利用していることを思えば、時代の変化に対応していくのは、そんなに大変ではないのです。
若いときは脳が柔軟だったからできたけれど、と考える向きもありますが、高齢者になってからデジタル人間になったという人は珍しくありません。
私の兄もその一人。
90歳になる今も、ネットコミュニティー「メロウ倶楽部」でユーモラスな投稿をしています。
時代の波に乗ることができる人の特徴は、潔く進化を受け入れ、かくなるうえは楽しもうと心の切り替えが早いこと。
機械に強いか、弱いかなどは、関係ないという気がします。
もちろんアナログを使いこなせることも大切。
デジタルとアナログを使いこなせる「二刀流」の大谷翔平さんのようになれたら、さらに素晴らしいです。
さっそくチャレンジしてみませんか?
さて、連載は今回でおしまいとなります。
お読みくださりありがとうございました。
新たなエッセイを加えて一冊の本にまとめる予定ですので楽しみにしていただけましたら幸いです。
みなさまのつつがない毎日を心よりお祈り申し上げます。
構成/丸山あかね イラスト/樋口たつ乃