『裁判長の泣けちゃうお説教』 (長嶺超輝/河出書房新社 )第2回【全10回】
「人を裁く人」――裁判官。社会の影に隠れ、目立たない立場とも言える彼らの中には、できる限りの範囲で犯罪者の更生に骨を折り、日本の治安を守ろうと努める、偉大な裁判官がいます。
30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の著者、長嶺超輝さんによる一冊『裁判長の泣けちゃうお説教: 法廷は涙でかすむ』(KAWADE夢新書)は、そんな偉大で魅力あふれる裁判官たちの、法廷での説諭を紹介。日本全国3000件以上の裁判を取材してきたという著者による「裁かれたい裁判官」の言葉に、思わず「泣けちゃう」こと間違いなしです。
※本記事は長嶺超輝著の書籍『裁判長の泣けちゃうお説教』(河出書房新社 )から一部抜粋・編集しました。
働き者だった男が、病で伏せて働けなくなったときの激しい絶望感。一般の裁判員とプロの裁判官が話し合った末、年老いた男性に示された判決とは?
[2011年7月1日 福岡地方裁判所]
【前編を読む】炎の中から救助された80歳の男性。号泣し口にした「死ねなかった...」の一言
判決公判で、林秀文裁判長は懲役3年の刑を言い渡しましたが、裁判官と裁判員の全9名が話し合った総意として、その懲役刑に執行猶予をつけました。
立ち直る可能性が高いと認めて、いますぐ刑務所にいく必要はないという内容です。
さらに林裁判長は、穏やかな口調で説諭を始めました。
「いくつもの病気を抱え、妻に迷惑をかけたくないと、将来を悲観した経緯は、たしかに高齢者特有の心情として理解することができます。若い頃から70歳になるまで、半世紀以上も働きつづけたんです。胸を張って生きていいんです」
「あなたはいままで『迷惑をかけたくない』という思いが強すぎたのではないでしょうか。これからは、迷惑をかけていいんです」
被告人は「わかりました」とだけ答え、裁判官と裁判員に深々と頭を下げ、閉廷しました。
一般の人々とプロの裁判官が同じ法廷でコラボレーションをおこなう裁判員裁判は、弱い立場におかれた被告人の気持ちまで判決の中に盛り込む、確かな価値があると感じます。