『裁判長の泣けちゃうお説教』 (長嶺超輝/河出書房新社 )第1回【全10回】
「人を裁く人」――裁判官。社会の影に隠れ、目立たない立場とも言える彼らの中には、できる限りの範囲で犯罪者の更生に骨を折り、日本の治安を守ろうと努める、偉大な裁判官がいます。
30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の著者、長嶺超輝さんによる一冊『裁判長の泣けちゃうお説教: 法廷は涙でかすむ』(KAWADE夢新書)は、そんな偉大で魅力あふれる裁判官たちの、法廷での説諭を紹介。日本全国3000件以上の裁判を取材してきたという著者による「裁かれたい裁判官」の言葉に、思わず「泣けちゃう」こと間違いなしです。
※本記事は長嶺超輝著の書籍『裁判長の泣けちゃうお説教』(河出書房新社 )から一部抜粋・編集しました。
働き者だった男が、病で伏せて働けなくなったときの激しい絶望感。一般の裁判員とプロの裁判官が話し合った末、年老いた男性に示された判決とは?
[2011年7月1日 福岡地方裁判所]
燃えさかる住宅から救助された男性
福岡県内の、とある平屋一戸建ての家が燃えていると、近隣の住民から119番通報が入り、現場に消防士が駆けつけました。
炎のめぐりが速く、家はたちまち音を立てて崩れ始めます。
難しい消火活動となりましたが、消防士の活躍によって炎の中から80歳になる男性住人が助けだされました。
煙を吸い、意識がもうろうとしていた彼でしたが、命に別状はありませんでした。
ようやく無事に鎮火し、警察官の捜査が入ったところ、現場の状況から「事件性の匂い」
が漂ってきたといいます。
仏壇から寝室にかけて、火元とみられる場所が不自然にひろい範囲にわたっていたからです。
つまり、ガソリンなどの可燃性がある物質をまいて、何者かが「放火」した可能性までふくめて捜査がすすめられていったのです。
そのいっぽう、消防士によって無事に救出された男性住人が、病院のベッドで意識を取りもどしました。
彼はそばに座っていた奥さんの姿に気づくと、突然、両手でシーツをつかみ、号泣し始めたのです。
「ごめん、ごめん......」「死ねなかった......」
彼は持病によって身体の自由が利かなかったにもかかわらず、それでも無理を押して、自宅の寝室や仏間に灯油をまき、火を放ったのです。
自責と後悔に押しつぶされそうになり、人目もはばからず泣きじゃくる夫の手を、妻は黙ったまま優しく握りました。