自宅に火をつけ「放火自殺」を図った80歳男性に、裁判長が「胸を張って生きていい」と語りかけた理由

「迷惑をかけない」という日本人の美徳は「呪い」になりかねない

日本では、親が子どもを叱るとき「他人さまに迷惑でしょ」という言葉を添えることが多いものです。

しかし一方で、インドでは「お前は人に迷惑かけて生きている。だから、人のことも許してあげなさい」と子どもに教えるらしいのです。

「他人さまに迷惑をかけずに生きる」という日本人の美徳は立派です。災害時にも、ちゃんと行列に並び、黙って物資の支給を待つ日本人の姿は世界からの尊敬を集めます。

しかし、別の側面ではどこか息苦しさも感じます。

どんな場面でも、「迷惑をかけない」生き方を貫けば、他人だけでなく身内にも助けを求められなくなり、極限の状態まで追い詰められる「呪い」ともなりえます。

「迷惑」という言葉の意味は、おもに2種類に分かれるのではないでしょうか。

騒音を出したり、他人の行動を妨害したりする迷惑は慎むべきです。

ただ、いざというときに「誰かを頼る」「助けを求める」ことまで、同じような「迷惑」だと捉えたとたんに、息の詰まる社会になってしまいます。

他人に助けを求められることを、迷惑だと突き放す姿勢は、自分は今後ずっと、誰かに助けを求めるような立場にならないはずだと思い込む「傲慢さ」に基づいています。

そこに、日本人の美徳であるはずの「謙遜」は、どこを探しても見当たりません。


本稿の「名裁判」の情報は、著者自身の裁判傍聴記録のほか、読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞・共同通信・時事通信・北海道新聞・東京新聞・北國新聞・中日新聞・西日本新聞・佐賀新聞による各取材記事を参照しております。
また、各事件の事実関係において、裁判の証拠などで断片的にしか判明していない部分につき、説明を円滑に進める便宜上、その間隙の一部を脚色によって埋めて均している箇所もあります。ご了承ください。裁判記録を基にしたノンフィクションとして、幅ひろい層の皆さまに親しんでいただけますことを希望いたします。


 

長嶺超輝(ながみね・まさき)
フリーランスライター、出版コンサルタント。1975年、長崎生まれ。九州大学法学部卒。大学時代の恩師に勧められて弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫し、断念して上京。30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の刊行をきっかけに、テレビ番組出演や新聞記事掲載、雑誌連載、Web連載などで法律や裁判の魅力をわかりやすく解説するようになる。著書の執筆・出版に注力し、本書が14作目。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています


※本記事は長嶺超輝著の書籍『裁判長の泣けちゃうお説教』(河出書房新社 )から一部抜粋・編集しました。

この記事に関連する「暮らし」のキーワード

PAGE TOP