「何歳ですか」と聞く必要ある?年齢による差別「エイジズム」の不幸

知人の名前がどうしても出てこず「老化かな・・・」とへこむこと、ありますよね。そこで鍛えたいのが「思い出す力」。情報をただ「インプット」するのではなく、何度も思い出して「役立てる」ことで、情報が「知恵」に変わり、人生を充実させることができるんです。そんな話題の新刊『ど忘れをチャンスに変える思い出す力:記憶脳からアウトプット脳へ!』(茂木健一郎/河出書房新社)より、思い出す力を高めるための効果的な方法や、誰もがすぐにできるアクションを連載形式でお届けします。

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エイジズムは人を不幸にする

ずっと 5歳児で生きるなんて無理。そんな生き方ができるのは特殊な人に違いない――。そう思う人のために、なぜわれわれが年齢にとらわれているのかを説明しましょう。

エイジズムがなぜ起こるかというと、基本的には「何歳になったら成人と見なす」というように、昔からの慣習を引きずっているからです。ただ年齢で区別する癖がついているのです。

2017年にカナダのバンクーバーで行われたT E Dカンファレンスで、「エイジズムに終止符を!」というトークがとても評判になりました。ニューヨークの作家兼活動家で、1952年生まれのアシュトン・アップルホワイトさんが、われわれは人種差別や男女差別、いろいろな差別をなくそうとしてきたけれど、年齢による差別が残っている、もうエイジズムをやめようと訴えました。

僕はその会場にいたからよく覚えているのですが、そのトークは、彼女と同じくらいの世代の人だけでなく、どんな世代の人からも賞賛を浴びていました。「そうそう、私もそういう扱いをされたことがある! それはやっぱりおかしいよね?」とほとんどの人が共感できるほどに、エイジズムは世の中にはびこっています。

日本では、まず履歴書に年齢を書かなければなりません。そして、「35歳以上だと仕事を得にくくなる」というようなことが平然と言われます。これはアメリカでは「差別」で、「違法」です。35歳になると一体それまでと何が変わるというのでしょうか?

顔写真を履歴書に載せなければならないことも、「違法」です。顔や年齢が、なぜ仕事を得ることに関係があるのでしょうか?

「年齢を書いたり、顔写真を貼ったりすることが当然だ」という人には、「能力がそれによって違う」という偏見があります。

残念ながら、日本は国際的に見るとエイジズムが強い国だと言わなければなりません。しかし、日本に限らず、どの文化圏でもエイジズムはあって、特に女性は男性以上にエイジズムの対象になりやすいところがあります。

若い女性のほうが、年配の女性よりも、歓迎、優遇されることがどの国でもあって、そのような慣習に多くの人が疑問を抱いています。

あなた自身は、エイジズムを受けたことはありますか? それはどんな状況でしたか? また、あなたは、さまざまなシチュエーションで、人に年齢を聞いてはいませんか?

もし聞いているとしたら、それは何のためですか?

人の年齢を気にする根拠は何ですか?

他人に対して気にしていることは、実は、自分に対して不安に思っていることです。

現代人の一つの不安が、「年齢」にあります。

われわれは、年を取ることにネガティブなイメージを持っています。年を取ることは、坂を下ることで、だんだんと惨めになると思っています。

アップルホワイトさんは、それは事実ではないと言います。たとえば、若い人は死を恐れ、忌み嫌いますが、そのような死に対する恐怖は、年を取った人のほうが少なくなり、人生で最も幸福感を抱くのも、年齢が上がったときであると語ります。実際、人間の幸福度は、年を取れば取るほど下がるわけではなくて、U字型になる(つまり、子どもとお年寄りが特に幸せ)というエビデンスがあります。

年を取ることについて、われわれは間違った思い込みをして、勝手に不幸になっています。彼女によると、女性が不幸になるのは、女性だからではなくて、女性差別があるからで、年を重ねた人が不幸になるのは、体や認知機能が多少衰えたからではなくて、それに対する差別があるからなのです。

なぜ若い人と老いた人を区別するのを当たり前だと考えるのでしょうか? 年を取ると、たくさんの経験を積んでいて、実は、自分が置かれた状況から学ぶ力、対処能力は高くなっています。なぜよいことがたくさんあるのに、それを見つめず、惨めなものだと考えるのでしょうか? 自分で自分の未来を不幸にしていませんか?

そう問われて僕も、年を重ねてだんだん成熟していくことを否定することはおかしい、と強く思うようになりました。

今、学び直しで大学に戻る高齢者が増えています。お年寄りには学ぶ力がないというのは嘘です。それと同様に、若い人が、年齢を理由に就職できなかったり、結婚できなかったり、学校に行くことができなかったりするならば、それは社会が「らしさ」の呪縛にとらわれていて、その被害を受けてしまっているということです。

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「何歳ですか」と聞く必要ある?年齢による差別「エイジズム」の不幸 思い出すカバー帯.jpg情報過多の現代に「思い出す力」を強化することで、クリエイティブになれる「新しい脳の使い方」を教えてくれる一冊。全6章の構成で、各章にはポイントやレッスンの「まとめ」がついた保存版です!

 

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年東京生まれ。脳科学者。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞、2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞受賞。

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『記憶脳からアウトプット脳へ! ど忘れをチャンスに変える思い出す力』

(茂木健一郎/河出書房新社)

AI(人工知能)が本格的に普及していく現代において、「思い出す力」を強化することを解く話題の一冊。「思い出す」という行為が、過去をなつかしんだり、ノスタルジーに浸るためのものではなく、非常に創造的な行為であること。そして従来の「暗記・記憶=インプット」偏重の脳から「アウトプット脳」に変えることが、これからの時代を生きるために必要なことを明らかにしていきます。

※この記事は『記憶脳からアウトプット脳へ! ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(茂木健一郎/河出書房新社)からの抜粋です。

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