最近「思い出す力」を使っていますか?茂木健一郎さん「アウトプット脳」のススメ

知人の名前がどうしても出てこず「老化かな・・・」とへこむこと、ありますよね。そこで鍛えたいのが「思い出す力」。情報をただ「インプット」するのではなく、何度も思い出して「役立てる」ことで、情報が「知恵」に変わり、人生を充実させることができるんです。そんな話題の新刊『ど忘れをチャンスに変える思い出す力:記憶脳からアウトプット脳へ!』(茂木健一郎/河出書房新社)より、思い出す力を高めるための効果的な方法や、誰もがすぐにできるアクションを連載形式でお届けします。
最近「思い出す力」を使っていますか?茂木健一郎さん「アウトプット脳」のススメ pixta_48571016_S.jpg

現代人の多くが「記憶」に不安を持っています。

思春期には学校でのさまざまなテストを突破すること、青年期、壮年期では会社などで成果を挙げることが期待され、常に記憶力を試されてきたうえに、高齢になると、記憶力に問題の出るアルツハイマー型認知症などの病気に患(わずら)わされることもある。

記憶にまつわる心配事に、われわれは辟易(へきえき)しているのではないでしょうか?
人生100年時代の今、どうしたら幸せに生きられるのでしょうか?

僕は、脳の使い方に偏りがあることが問題だと思っています。

一度きりの人生ですから、頭も体も、自分の持っている機能は、フルに使いたいところですが、脳の使い方にも人によって癖があり、いつも決まった回路を決まったパターンで働かせてしまう傾向があります。

たとえば、記憶には、「覚える」「保存する」「思い出す」という三つのプロセスがありますが、あなたは、記憶というと、「覚える」「保存する」ことに重きを置いて、「思い出す」ことをおろそかにしてはいませんか?

脳の中には、デフォルト・モード・ネットワークと呼ばれる回路があります。

この回路は、若いときが最も活動が盛んで、年を取ると働きにくくなり、アルツハイマー型認知症になると顕著に働きが悪くなってしまうことがわかっています。

この回路が主に何をしているかというと、記憶の整理です。
あなたが子どもだった頃を思い出してみてください。毎晩、その日にあったことなどを、あれこれと頭の中に浮かべて、なかなか眠りに就かず、ご両親に機関銃のように話していたのではないでしょうか?

思春期の頃も、「あの人にあんなことを言われてしまった」「今日こんなことをやってしまった」と通学電車の中や、夜寝る前の布団の中で、何度も細かく思い出しては、ため息をついていたのではないでしょうか?

若い頃は自然とそのように「思い出す」時間が生活の中にあるものですが、年齢を重ねていくと、いつしか、あれこれ悩まずともさまざまなことが無難にこなせるようになり、ぎちぎちに詰まったスケジュールの中で、毎日つつがなく終わることだけを祈って、一瞬でも早く布団に入ろうとしがちです。

細かく思い出し、悩む回路は、人生の方針が決まって、新しいことに挑戦しなくなると、あまり活動しなくなってしまうのです。いろいろと思い悩んでいる状態は、若さやエネルギーあふれる存在の象徴と言えます。

考えてみれば、年を重ねるとともに経験が脳の中に貯まっていくのに、その膨大な記憶を鮮やかに思い出し、悩むことなく、毎日同じ課題を着実にこなすだけで暮らしていくのはもったいないのかもしれません。

面倒な過去は思い出さないほうが楽に暮らすことができますし、われわれは「できれば悩みなど持たずに暮らしたい」と思うものですが、それが逆に、若さやエネルギーを失わせ、幸福の追求の妨げになってしまうことがあります。

「思い出す」回路を使わなくなっていけば、「思い出す」回路が弱くなって、記憶力に問題が出てしまうのも当然かもしれません。われわれが「面倒」「無駄」と決めつけて、やらないでいることを、見直す必要があります。

思い出すことは意識して、自分からやっていくべきことなのです。

思い出すことは実は、非常にクリエイティブになれることです。

ものごとは、インプットしただけでは単なる「情報」ですが、何度も思い出し、自分の生活の中で役立てることによって「知恵」に変わります。

現代は、インターネットのおかげで、無料でたくさんの面白い情報を手に入れることができるようになり、頭への情報のインプットには事欠きません。

しかし、インプットしたと同じだけの量を、アウトプットすることはほとんどの人ができていないのではないでしょうか?

インプットを重視するのは、記憶の三つのプロセスのうち、「覚える」「保存する」という二つしか活用しないことになります。それでは本当にもったいない。情報を鵜呑みにするだけなら、それは従来型の受け身な「記憶脳」です。

知識も情報もあふれかえる時代に、インプット一辺倒では限界があります。インプットするだけでは、AI(人工知能)が本格的に普及するこれからの時代に人間が勝ち残ることは難しくなります。

こう言うと、「人間はもうAIに勝てないのか?」と早合点する人がいますが、そんなことはありません。むしろAIにはできないこと、もっと言えば、あなたにしかできないことをやっていくべきです。それは、「思い出す力」が創り出してくれるのです。

僕は、今回の配信や、この記事の元となる新刊『ど忘れをチャンスに変える思い出す力』で、これからの時代に必要な新しい脳の使い方を提案しています。それが、「思い出す」という脳の回路を使うことでアウトプットしていくこと。

思い出す力を最大限に活かした「アウトプット脳」にすることがこれからの時代を生きる道であり、脳のクリエイティブな使い方です。

「思い出すことがアウトプット?」

なかには、そんな疑問を持つ人もいることでしょう。そんなあなたにこそ、読んでもらいたいのです。

アウトプット脳にすることが自分自身を成長させ、充実した人生を送ることにつながると、僕は思っています。「思い出す」ヒントをお伝えしていきましょう。

最近「思い出す力」を使っていますか?茂木健一郎さん「アウトプット脳」のススメ 思い出すカバー帯.jpg情報過多の現代に「思い出す力」を強化することで、クリエイティブになれる「新しい脳の使い方」を教えてくれる一冊。全6章の構成で、各章にはポイントやレッスンの「まとめ」がついた保存版です!

 

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年東京生まれ。脳科学者。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞、2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞受賞。

shoei.jpg

『記憶脳からアウトプット脳へ! ど忘れをチャンスに変える思い出す力』

(茂木健一郎/河出書房新社)

AI(人工知能)が本格的に普及していく現代において、「思い出す力」を強化することを解く話題の一冊。「思い出す」という行為が、過去をなつかしんだり、ノスタルジーに浸るためのものではなく、非常に創造的な行為であること。そして従来の「暗記・記憶=インプット」偏重の脳から「アウトプット脳」に変えることが、これからの時代を生きるために必要なことを明らかにしていきます。

※この記事は『記憶脳からアウトプット脳へ! ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(茂木健一郎/河出書房新社)からの抜粋です。

この記事に関連する「暮らし」のキーワード

PAGE TOP