いまの時代だからこそ再評価される「民生委員」。課題は「なり手不足」【文京学院大学 中島教授が解説】

民生委員とは地域住民と行政機関をつなぐ特別職の地方公務員。民生委員をめぐる最も大きな課題は「なり手不足」です。

高齢化や人口減少など時代の変化もありながら、さらに再評価される存在であることなどの背景もご紹介します。

※この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年2月号に掲載の情報です。

いまの時代だからこそ再評価される民生委員

家族の介護や、障がい者がいる世帯などの住民の困りごとについて相談に乗り、公的な相談窓口と連携する役割を担う民生委員。

下で示しているように、特別職の地方公務員であり、給料は発生しないボランティアでもある立場なのですが、「なり手」がいま不足しています。

定員に対して任命された人の割合である充足率は2022年では93.7%と、12年前と比べ4%も下落してしまっているのです。

民生委員についての調査・研究を行う中島修先生は「その理由は大きく二つ挙げられます。一つは高年齢者雇用安定法の改正などによって65歳以上の人の半分程度が働き続けるという時代になったことです。これまでのように60歳で定年退職して民生委員になる、という人が少なくなりました。そしてもう一つが、地方の人口減少です。高齢化が進み人口が少ない地域では、地域に密着している40〜60代という、民生委員に適した人がそもそも見つからないのです」と話します。

民生委員は100年以上の歴史を持つ制度ですが、時代の変化に合わなくなってしまったのでしょうか。

これについては「むしろ、いまの時代になり、行政機関が民生委員制度を再評価し始めていると感じています」と、中島先生。

なぜでしょうか。

「時代が変わり、いまはさまざまな公的相談窓口も整備されているのですが、調査の結果では民生委員への相談件数自体は想像よりは減っていません。ここから考えられるのは、いきなり公的な相談窓口に行くのに抵抗感がある人がいることです。調査結果を見ても、民生委員にまず相談してから適切な相談窓口を紹介してもらうというケースが散見されます」と、中島先生。

さらに「現代の問題であるひきこもりでも、8050問題(※)などから民生委員がより正確に実態を把握しているという場合があります。普段から住民目線で活動しているため、より細かく地域の実態を把握できるのです」と続けます。

※ 80代の親がひきこもりの50代の子の生活を支えるために負担を抱える社会問題。

民生委員の役割

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民生委員とは?
・民生委員は、厚生労働大臣から委嘱という形で選ばれ、都道府県知事の指導監督を受ける特別職の地方公務員です。
・町会や自治会からの推薦などを受けて、選ばれます。
・給料はありませんが、交通費などの活動費は支給されます。
・3年に1度改選され、次の改選は2025年に行われます。
・その地域の状況を把握し、困っている人がどれくらいいるのかを日常的にアンテナを張って調べていくことが求められます。
・困った人がいれば地域住民と同じ目線で相談に乗り、適切な公的相談窓口につなぎます。
・子育ての相談などを受ける児童委員を兼務することが法律で定められています。

民生委員だからできる魅力ある活動を

そんな民生委員ですが、先に述べたなり手不足以外に、下で紹介しているような課題も抱えています。

「民生委員への期待が大きく、役割を担い過ぎているのも課題だと言われています。認知症高齢者の支援もしてほしいし、児童虐待を見つけたら知らせてほしいし、災害時には避難も手伝ってほしいなど、色々な要望が聞こえてくるため、『私にはできないかも...』と考えてしまう人が増えているのです」と、中島先生。

民生委員制度は今後どうなるのでしょうか。

中島先生は、次のように呼びかけています。

「民生委員だからできることもあるのです。要望全てを『やらなきゃいけない』とは考えずに、まず『やりたい』『楽しい』と思うことを優先してみてはいかがでしょうか。すると、いずれ民生委員同士の横のつながりも生まれますし、そうなればもっと楽しくなるはずです。第二の人生でこれまでとは異なる、行政機関や社会福祉協議会と一緒になってまちづくりを進めていくという活動ができるのは、民生委員ならではの魅力です」

民生委員制度が抱える課題

いまの時代だからこそ再評価される「民生委員」。課題は「なり手不足」【文京学院大学 中島教授が解説】 2402_P076-077_02.jpg(1)なり手不足が進行
いま民生委員制度が抱えている最も大きな課題は、「なり手不足」です。
上のグラフは、2010年以降の改選時の民生委員の任命数と、定数に対して任命された数の割合(充足率)を示したものです。充足率は右肩下がりになっていて、2022年の改選時にはついに95%を割り込んでしまっています。任命数も若干の増減はありますが、2016年以降は減少傾向です。
「門戸を広げるために、会社で働きながら民生委員を務めることが評価されるような仕組みを作っていく必要があります」(中島先生)

(2)その地域への住民登録が必要
民生委員になるには、その地域の自治体に住民登録をしている必要があります。しかし中島先生は、「現状、それだと候補が見つからない地域もあるのです」と話します。
「例えば近くの別の地域に引っ越したけど以前住んでいた地元とのつながりが強く残っている人や、その地域の企業に隣町から電車通勤しているけど住民と深い関係性がある人などは特例として、候補として選べるように仕組みを変えていくことも検討すべきだと個人的には考えています」と、中島先生。

(3)認知度が足りない
「 『民生委員』という言葉は聞いたことがあっても、実際にかかわったことがないという人が多いことを実感しています。民生委員の活動に触れる機会をいかに増やしていくのかも大きな課題です」と、中島先生。
「地方自治体のインターンシップ(職場体験)の中で『民生委員』について考える機会を取り入れたり、小中学校で困っている児童をみんなで支え合う『こども民生委員』の制度を取り入れたり、という活動も必要だと思います」と、続けます。

構成・取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ

 

<教えてくれた人>

文京学院大学 人間学部 人間福祉学科長 教授
中島 修(なかしま・おさむ)先生

1970年生まれ、長崎県出身。東北福祉大学大学院総合福祉学研究科社会福祉学専攻博士(後期)課程修了。博士(社会福祉学)。厚生労働省地域福祉専門官などを経て2022年より現職。地域福祉などが専門。

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