話しかけても反応がない夫と、どう暮らしていけばいいのか――。アスペルガー症候群のパートナーと結婚し、家庭を築いていく難しさから次第にうつ状態(カサンドラ症候群)となったシニア産業カウンセラーの真行結子さん。自身の体験から、「自分らしい夫婦の形を実現させることが大切」だと気づかされました。そんな真行さんの著書『私の夫は発達障害?』(すばる舎)から、いい夫婦関係を保つヒントを連載形式でお届けします。
別居・離婚は「失敗」ではありません
別居や離婚をしたことで、カサンドラ症候群から回復し、幸せになった方々の多くは、迷いもなくその選択をしたわけではなく、ためらいや葛藤の道のりを経て、決意しています。
そのためらいや葛藤の理由に多く挙げられるものが、別居や離婚に対する「マイナスイメージ」による自己否定感です。
カウンセリングにいらした方から、「私は~なんです」と具体的に語られる「~」にあてはまる内容としては、以下の三つに大別されます。
① 失敗者
②「普通の家庭」を壊そうとしているダメな妻・母親
③ 発達障害の夫を受け入れることができない非情な妻
カウンセリングでは、こうした別居や離婚に対する「マイナスイメージ」の認知を変えるアプローチを行い、自己否定感を軽減させていきます。
まず、①の失敗者についてですが、一度結婚したならば、同じ屋根の下で死ぬまで暮らし続ける「べき」なのでしょうか?
夫婦仲がよく、家庭がくつろげる場であり、ふたりがともに暮らしたいと希望するのであれば、ずっと一緒に暮らせばよいのです。
しかし、夫婦関係のストレス解消がどうやっても難しく、家庭が心落ち着く場ではないことが原因で、自身の心身に不調をきたしている場合に、その状況を変えることは果たして「失敗」なのでしょうか。
すべての人が、「ここに帰れば安心して心と身体を癒して回復できる"安全基地"としての家庭を持つ権利」を持っています。
安全基地ではない家庭から抜け出すことは「失敗」ではなく、自分を守る「勇気ある行動」なのです。
©アライヨウコ
家庭の在り方は多様
では、②の「普通の家庭」とは何を指すのでしょうか。
「夫婦のみ」「夫婦+その実子」のほかにも、「ひとり親家庭」「里親家庭」「同性婚家庭」など、さまざまな形態の家庭や、事実婚、別居婚を選択するカップルも社会には存在し、家庭やパートナー関係の在り方は多様化しています。
ところが、「家族であれば同じ屋根の下に暮らすべき」「子どものためには父親と母親が揃っているべき」と語る人ほど、そこから自分が外れたいと感じたとき、そのような考えを持った自分を責め、その気持ちを封じ込めようとします。
しかし、心のなかに抱いた気持ちは、封じ込められているだけで、問題は解決されておらず、一時的に抑えられても、再び表出してきます。
そのたびに、当事者は自責の念に苛まれると同時に、日々繰り広げられる問題への対応の困難さに消耗していくのです。
まずは、自分の気持ちにていねいに向き合ってみてください。
次に、「べき」思考を少しずつ手放していくことで、多様な在り方への気づきを得ることができるでしょう。
その結果、自分を大切にする選択が可能となるはずです。
限界を超えてまでがんばる必要はない
発達障害特性のある夫との暮らしのなかで、こだわりや感覚過敏等への対応、社会生活におけるフォロー、子育てや家庭運営の大部分を担うなどの結果、妻は疲弊していきます。
家庭外からの支援を得られない場合は、さらに消耗していくでしょう。
介護(老人、障害者、病気)や子育てを限界以上にがんばった結果、幸せではない結果を招くリスクが高まることは、社会的にも広く知られているところです。
しかし、今の状況が自分の限界を超えているかどうかを判断できなくなってしまっている状態の方も少なくありません。
次のような症状が二週間以上続くようであれば、限界にきている可能性を意識しましょう。
・寝つきにくい、眠っている間や早朝に目が覚める
・疲労感や倦怠感、頭痛、肩こり、腹痛や下痢、めまいや動悸
・食欲不振または過食
・思考力や集中力、作業効率の低下
・人と会うことが億劫に感じる
・不安な気持ちが続く
・イライラして気持ちが落ち着かない
・自分はダメだと感じる
あてはまる症状が四個以上の方は、ひとりで抱え込まず、信頼できる周囲の人や、医療機関に相談をすることをおすすめします。
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カサンドラ症候群から回復するまでの同居・別居・離婚の3ケースを全5章が紹介されています