【おかえりモネ】当事者「じゃないほう」の父と娘。対照的だった幼馴染と交錯した「決着」/23週目

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「父たちの『決着』」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第23週のサブタイトルは「大人たちの決着」。

嵐の海から亮(永瀬廉)が無事に戻ったことで、新次(浅野忠信)はとある覚悟を決め、耕治(内野聖陽)に相談するために永浦家を訪ねる。

震災で行方不明になっていた妻・美波(坂井真紀)の「死亡届」を出すことにより、それで得られる見舞い金や保険金を自分の船を持とうとしている亮に託したいというのだった。

美波の留守電メッセージが入った携帯を聞き続け、その死を決して受け入れるまいと、まるで自分自身に呪いをかけるように「絶対に立ち直らねえよ!」と言い続けた新次。

しかし、亮が大しけに巻き込まれたとき、新次は思わず「亮を戻してくれ」「連れて行かないでくれ」と美波に祈り続けていた。

死を受け入れるまいとする意志とは別に、心はすでに「美波がむこうにいる」と気づいていたのだった。

しかし、「元に戻ろうとすると全部止まる」と言い、漁師に戻ることは拒み、亮に自分の人生を生きるよう告げる新次。

考え方が異なるとして描かれてきた及川家の父子だが、「俺、幸せになっていいのかなって」と呟いた亮と、自分の脆く崩れそうな本心に触れないよう、フタをして堅固に縛り続けてきた新次のこの発言は実に似ている。

そして今週はもう一人の「決着」も描かれた。

銀行員として栄転が決まっているにもかかわらず、自分の代で家業を畳もうとする父・龍己の牡蠣養殖業を継ぐ決意をしたのだ。

もちろん龍己は大反対。

しかし、耕治は牡蠣業を「やってみたかったんだよ、ずっと」と言い、「人間ってのは変わるんだよ。変わっていいんだよ」と呟く。

これは耕治の本心だろう。

思えば耕治は、百音と同じく自分のやりたいことをやり、上手に生きている人に見えて、やはり百音と同じく、ずっと当事者「じゃないほう」だった。

音楽の道を目指し、諦めたのも同じ。

震災のときにそこにいなかったのも同じ。

ただし、百音とは違い、その葛藤や苦悩は表面上あまり見えなかった。

だが、耕治は初恋相手の幼馴染・美波は新次と結婚した「選ばれなかったほう」でもある。

その新次は元カリスマ漁師で、自身の父も海に命を懸けてきた男であり、おそらく負い目はあったろう。

かつて実家の寺から逃げていた三生(前田航基)に対し、「気持ちはわかる」「あそこまで俺やれっかなぁって。親の仕事継ぐって、やるなら超えてかなきゃダメだろって、プレッシャーかかっとこあるしな」と語っていたこともあった。

しかし、龍己は大学を出て銀行員になった耕治が自慢だったこと、もともと家業を継がせるつもりなどなかったことが、耕治の母・雅代(竹下景子)の発言として亜哉子(鈴木京香)から明かされる。

「耕治」の名前「耕し、治める」にはそんな思いが込められていたことも。

カリスマで激動のドラマチックな人生を歩んできた新次と、堅実かつスムーズな人生を歩んできたように見える耕次。

常に近くにいながら対照的に見えた2人の人生が、それぞれ大きな決断を機に交錯した週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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