私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?
身近なモノに秘められた"感動もの"の技術をわかりやすく解説します!
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前の記事「黒板とチョークの間には、2種類の摩擦がある/すごい技術(39)」はこちら。
●和紙
近年、"特別な紙"として和紙が人気だ。卒業証書や創作折り紙の素材として、伝統紙が再評価されているのだ。
明治時代に入るまで、日本で紙といえば和紙だった。パルプを用いた近代的製紙法が輸入されてから生産は激減したが、それでも和紙の人気は絶えることがない。その独特の風合いが、日本人の心を引きつけるのだろう。例えば、千代紙(ちよがみ)は紋(もん)や柄(がら)で飾られた和紙である。日本の伝統的な折り紙や紙人形の衣装、工芸品の装飾に用いられている。近年では、卒業証書に和紙を利用するのがブームになっている。
紙の製法が日本に伝わったのは、今から1400年近く前の飛鳥(あすか)時代の頃だ。それから改良が加えられ、現在の和紙に至っている。
和紙は現在大量に流通する紙(洋紙)とどこが違うのだろうか。どちらも植物から繊維質を取り出して抄(す)くことは同じだ。違いはその繊維の取り出し方にある。
和紙作りは、原料を煮て繊維を取り出し、叩(たた)いてほぐし、網ですくい上げ(これを抄くという)、乾燥させる。それに対して、現代の洋紙作りは木材を機械的にすりつぶし、薬品を加えて煮て植物繊維を取り出すのが主流だ。和紙はどちらかというと物理的に、洋紙は化学的に作られるのである。
この製造法からわかるように、和紙は繊維が長く、丈夫で劣化が少なく、保存性に優れている。それに比べ、洋紙は繊維が緻密で大量生産に向き、品質が均一で加工が容易だ。
ところで、紙はなぜ折ったり破ったりできるのだろう。それは原料の植物繊維が絡み合い、本来持っている接着力(水素結合という)でくっついてできているからだ。このくっつく力は物を近づけると生まれる力で、強くはない。紙が折ったり破ったりできるのは、ここに理由がある。強い力で結合しているなら、ガラスのように折ると壊れてしまう(この弱さを補強するために、製紙の際に糊成分を添加する)。
紙を水に浸すと弱くなってバラバラになる性質も、この結合の弱さで説明がつく。弱い結合は水でほぐされ、繊維同士がバラバラになるためだ。