紙おむつには現代科学の粋が詰まっている!/身のまわりのモノの技術(22)【連載】

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1990年頃を境にして、家庭の軒先で赤ちゃんの「おむつ」が干される風景が消えた。良質な紙おむつが開発され、従来の布おむつが不要になったからである。

使い捨て可能ながら、排泄物のもれをしっかりとガードする紙おむつ。その秘密を探ってみよう。

紙おむつは「表面材」「吸水材」「防水シート」の大きく三つの層で構成されている。

肌にいちばん近い層の「表面材」は直接肌に触れて尿をキャッチする部分であり、不織布という素材が利用されている。不織布は肌の接触面をサラサラな状態に保ちつつ、尿を隣の吸水材に送る働きをする。

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真ん中の層には「吸水材」がある。表面材から受け取った尿を吸い取り、固形化する。主要な素材は高分子吸水体である。高分子吸水体は自重の50 倍以上もの尿を瞬時に吸収して固めることができる。しっかり固めるため尿もれを起こさず、体圧がかかっても逆戻りさせない。

高分子吸水体はSAPと呼ばれる高吸水性樹脂でできている。最初は粉末だが、水分を吸収すると固形のゲル状態になる。SAPが尿を吸収するのに利用しているのが浸透圧だ。浸透圧とは濃度の低い液体が濃度の高い液体に移動する圧力のこと。SAP内部はイオン濃度が高く、尿は低い。その濃度差から生まれる浸透圧で尿を吸収するのである。

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いちばん外側の「防水シート」は、尿やニオイを外にもらさないための最後の砦だ。しかし、通気性が遮断されては、肌がかぶれてしまう。そこで、全面通気性シートが用いられている。全面に肉眼では見えないミクロの穴が無数に空いた特殊素材である。尿や臭いはもらさず水蒸気だけを外に逃がし、おむつ内の湿度を下げる。こうして、ムレによる肌のトラブルを防いでいる。

おむつには現代科学の粋が詰まっている。日本の紙おむつの輸出が年々増加している理由はここにある。

涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」(KADOKAWA)からの抜粋です。

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