相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
原則は半分ずつ「財産分与」
【事例】
新たな生活を始めるにも先立つものはお金。折半と聞いていますが、今の預金の半分では不安。しかし、年金は半分もらえるはず、夫の将来の退職金ももらえるかも。夫名義の自宅はローンが残っていますがそれは夫の物でしょうか?さて、実際にどの程度の額になるのでしょうか?
【この条文】
民法 第768条(財産分与)
第1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
財産分与の対象になるもの
離婚の財産上の清算の一つが財産分与です。
精神的苦痛に対する慰謝料ではないので、離婚原因や責任の有無と切り離して考えます。
財産分与の対象は、結婚して共同生活の中で協力して築き上げた財産です。
結婚前にそれぞれが取得していた財産や結婚期間中にそれぞれの親から相続した財産は入りません。
また、結婚期間中でも別居中(仕事による単身赴任の別居は含みません)に取得した財産は入りません。
資産とみられるものはすべてで、不動産、預貯金などのほか、生命保険、退職時に受領する退職金および年金も、財産分与の対象になります。
名義のいかんを問いません。
専業主婦の場合、結婚後購入した自宅は夫名義にしていることが多いでしょう。
しかし分け方は、原則として平等に折半です。
専業主婦の家事への貢献もきちんと評価し、男女平等の観点から同等に見ます。
ただし、医師や投資スキルの高い証券トレーダーなど、特殊な努力や能力によって高額な資産を形成した場合には、その特殊な能力等を考慮して、一方の分与の割合が高くなります。
また、妻の経済力が弱く、離婚後に経済的に自立して生活することが見込めない一方で、夫には十分な給与・報酬の収入がある場合には、妻の生活費を補助するために定期金を一定の期間支払うことを約束する「扶養的財産分与」もあります。
次のような資産はどうなるか、一つずつ見ていきましょう。
生命保険
解約返戻金を受け取ることができる保険は、対象となります。
退職金
離婚時以降の将来に受け取る予定の退職金も対象となります。
離婚時に退職したと仮定して、その時点で受け取ることができる退職金支給予定額が対象です。
年金
婚姻期間中に支払ってきた厚生年金の分割を請求することができます。
年金分割には、合意分割と3号分割という2つの方法があります。
合意分割もできますが、3号分割では厚生年金に加入している会社員の配偶者で年収130万円未満の者(専業主婦等)が年金事務所に請求すれば、平成20年4月1日以降の年金について当然に2分の1に分割されます。
簡便です。
これで増額になる年金額の平均は、年額約15万円程度とされています。
婚姻期間がそれなりに長い高齢者であれば、これよりも多くなると思いますが、それでも生活の足しになるという程度です。
年金分割の請求期限は、離婚から2年です。
負債・住宅ローンなどのマイナス資産
これも当然、折半になります。
自宅を購入して現在の価値よりもローン残高の方が大きいときは、分割して売却しようとしたらローンだけが残り、支払いが大変で、結局、離婚すらあきらめたというケースもよくあります。
熟年離婚においても、他人事ではありません。
また、夫名義の債務を妻が連帯保証していれば、離婚したからといって妻の連帯保証がはずれるわけではないのです。
【その他の条文】
民法 第768条(財産分与)
第2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚のときから2年を経過したときは、この限りでない。
第3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額および方法を定める。
第762条(夫婦間における財産の帰属)
第1項 夫婦の一方が婚姻前から有する財産および婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう)とする。
第2項 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
イラスト/須山奈津希
ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。