女子中学生の娘に売春を強要していた母。「私も昔、援助交際して、家に金を入れていた」

警察の捜査によれば、約1年間にわたって数十回も売春させ、総計100万円以上を受け取っていたとみられています。

児童福祉法は、18歳未満の児童に対して淫行をさせることを禁じており、最高で懲役10年の犯罪と定めています。

また、母親の行為は売春防止法が禁じている「親族関係による影響力を利用して人に売春をさせた」(7条1項)場合に当てはまり、さらに「その売春の対償の全部若しくは一部を収受」(8条1項)しており、最高で懲役5年と定められています。

母から娘へ、世代を超えた「悲劇の連鎖」

初公判の場では、娘が売春で得た金で、その母親が義父と一緒にパチンコに興じたり、遊びや外食に出かけたりしたという新たな事実が、検察官によって明らかにされました。

何度も常習的に売春をさせているうちにエスカレートし、当たり前のことのように感覚が麻痺していたのでしょう。

「お金を入れなければ夫はイライラして、子どもたちや私に当たり散らしてきたり、○○さんのところへ出かけて、もどらなくなったりしていました。それが嫌で、お金を渡しつづけるしかなかったんです」

弁護人からの質問に答えて、母親は娘に売春をさせていた理由について答えました。

自分も被害者だといいたげな返答です。

弁護人は質問をつづけます。

「○○さんとは誰ですか?」

「......夫は、ほかに好きな女性がいて、その人です」

「浮気相手というか、いわゆる愛人ですか」

「......そうですね」

とはいえ、「生活のため」と称して娘に売春をさせて得たお金を、夫婦のデート代に使っていたのも事実です。弁護人からの質問はさらにつづきます。

「あなたが主人と外食などに出かけている間、娘さんは何をしていたか知っていますか。弟さんの世話をしながら、ずっと帰りを待っていたんですよ。主人と遊んでいるとき、娘さんのことは考えませんでしたか?」

「考えませんでした」

「娘さんが売春で得た金で遊ぶことに、ためらいはありませんでしたか?」

「私自身が、親からそういうふうに育てられたんです。私も10代の頃に援助交際して、親にお金を入れつづけていました。お金を入れなければ、母は父に暴力をふるうので、私はお金をつくるのに必死でした」

少女の母親は、自分のつらかった身の上を告白し、「夫と、またやりなおしたいです」と、いまの率直な気持ちを答えました。

検察官は「ママやお父ちゃんのせいで普通の中学生活を送れず、自分の体は汚れてしまった。ママのことは、実の親とはいえ絶対に許せない。もう一緒に住みたくない」という、娘の供述調書を読みあげるなどして、被告人に犯行の動機や背景について問いただしつづけます。

「娘さんのことを、ただの収入源としか見ていなかったんじゃないですか?」と、厳しい言葉も浴びせました。

しかし、自らの過ちに対する反省や、娘に対する謝罪の言葉などは、母親からいっさい出てきません。

悪びれた様子もありません。


本稿の「名裁判」の情報は、著者自身の裁判傍聴記録のほか、読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞・共同通信・時事通信・北海道新聞・東京新聞・北國新聞・中日新聞・西日本新聞・佐賀新聞による各取材記事を参照しております。
また、各事件の事実関係において、裁判の証拠などで断片的にしか判明していない部分につき、説明を円滑に進める便宜上、その間隙の一部を脚色によって埋めて均している箇所もあります。ご了承ください。裁判記録を基にしたノンフィクションとして、幅ひろい層の皆さまに親しんでいただけますことを希望いたします。


 

長嶺超輝(ながみね・まさき)
フリーランスライター、出版コンサルタント。1975年、長崎生まれ。九州大学法学部卒。大学時代の恩師に勧められて弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫し、断念して上京。30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の刊行をきっかけに、テレビ番組出演や新聞記事掲載、雑誌連載、Web連載などで法律や裁判の魅力をわかりやすく解説するようになる。著書の執筆・出版に注力し、本書が14作目。

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※本記事は長嶺超輝著の書籍『裁判長の泣けちゃうお説教』(河出書房新社 )から一部抜粋・編集しました。

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