「あり」「をり」「はべり」「いまそかり」はラ行変格活用で、枕詞、序詞、掛詞があり、「をかし」は「趣がある、風情がある」で「すさまじ」は「面白くない、興ざめ」なので現代の言葉とは意味が違っている、さらにはいまとは生活様式が違うのでいったい何をしているのかわからない、話者が誰かわからなくなることが多い、和歌が抽象的で理解できない......日本語なので読むことはできるけれど、スッと文章の意味を理解できないため苦手と感じてしまいがちな古文。しかし、一旦世界観や意味を理解することができれば、そこには豊穣な物語の世界が広がっています。
「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり」という書き出しで始まる、世界最古の女性文学作品といわれる『源氏物語』もそうです。光源氏という眉目秀麗な上に頭脳明晰・才気煥発という稀代の貴族の一生を描く物語(物語のラストは子世代が主人公になります)であり、数々の女性との出会いと別れ、嫉妬や恋い焦がれる気持ち、怨念(恨み過ぎて生霊になってしまう人も!)などが描かれているのですが、これが「勉強だ」と思うとつまらなくなるものなんですよね......。しかし、今回ご紹介する書籍『解きながら楽しむ 大人の源氏物語』(くもん出版)は、「古文」と聞いただけで学生時代の苦手意識がモリモリと蘇ってくる方でも大丈夫。どうぞご安心を!
本書は、平安時代の貴族社会のトピックやキーワードを切り口に、『源氏物語』の一部を読んでいく作りになっています。しかも1日2ページずつ、設問を解いて理解を深めつつ進めていくと、49日間でコンプリートできます。取り上げられているのは「恋愛」「人生のイベント」「平安常識」「行事」「土地」「服装・家具」「遊び」「官位・役職など」という8つのジャンルのトピックやキーワードで、『源氏物語』というお話を理解する上で役立つことばかり。くもん出版といえば子ども向けのイメージもありますが、毎日こつこつと「学び」を習慣化するメソッドならお手の物! 本書にもその工夫が随所に見られ、忙しい現代の大人にふさわしい「テキスト」と言えるでしょう。文字ばかりではなく、可愛らしいイラストも添えられ、無理なく学習を続ける一助になってくれます。
最初のパートは「恋愛編」。まずは「垣間見」というキーワードを取り上げ、垣間見についての詳しい解説(お目当ての女性を探すために覗き見ること。当然、現代ではアウト!)があります。そして第1日は「夕顔の咲く家の女性は」と題して『源氏物語』第四帖「夕顔」からの原文が掲載され、その文章を読んで設問に答えてから解答と解説を読み、その後の話の展開を知る、という"解きながら楽しむ"内容になっています(もちろん現代語で読める意訳も併記されていますので、気負わずに!)。
キーワードは他に、ラブレターのことである「懸想・懸想文」や、艶っぽい「夜這い」や「後朝の歌」について、結婚成立までのしきたりである「三日夜の餅・露顕」、当時の生活を強く支配した「陰陽道」に「方違え」、狩衣や十二単といった「服装」に、寝殿や御簾、屏風といった「家具」、また身分の違いや官位・役職の説明など、物語を理解するために必要な知識が詰まっています。そして本書の内容が理解できると、約400年も続いた平安時代のおおよその生活様式もわかるのです。
また巻頭には「おもな登場人物」「人物相関図」「源氏物語のあらすじ年表」があるので、大長編でなかなか読み通すのが難しい『源氏物語』の話の流れを理解することもできます。2024年は平安時代中期を舞台に、『源氏物語』を生み出した紫式部の人生を描くNHKの大河ドラマ『光る君へ』の放送も予定されているので、本書で平安時代と物語の予習をしておくと、ドラマの世界もより楽しめるようになること請け合いです。
文=成田全(ナリタタモツ)
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