仕事、学校、家庭......。上手くいかないことばかりの毎日の中で、精神をすり減らしながら生活している人も少なくないだろう。体がだるくて朝は起きられないし、夜も眠れない。ふと「もう無理かもしれない」という考えがよぎることも。だけど、私たちはいつも頑張りすぎてしまう。こんなふうに限界ギリギリのところにいるのに、「どうにか耐えなくては」「我慢しなければ」と自分を追い詰めてはいないだろうか。
※この記事はダ・ヴィンチWebからの転載です。
そんな人に読んでほしいのが『逃げる勇気』(和田秀樹/自由国民社)。著書累計1000万部突破の精神科医・和田秀樹氏による渾身の1冊だ。本書では、『嫌われる勇気』で有名になったアドラー心理学をもとに、「逃げる」ことの必要性を教えてくれる。「逃げるなんてできない」と思っている人も、この本を読めば「逃げるのもありかも」と思えてくるに違いない。
「逃げる」という言葉を聞くと、私たちはどうしてもマイナスのイメージを抱いてしまいがちだ。だが和田氏は、「逃げる」とは「自分に適した環境(自分らしくいられる環境)に移動すること」「自分の気持ちを整理する時間を持つこと」「命を守るために、相手との距離を置くこと」などと説明する。もしも「生きづらさ」を感じているのなら、それは、今の環境や状況が自分にフィットしていないだけ。命を守るためにすぐに生きやすい環境に移動することは危険回避のための賢明な選択肢なのだ。
「でも、周りからは『もっと頑張れ』って言われるし、逃げ出さずに自分が頑張らないといけない」と思う人も多いだろう。しかし、周囲の人たちの「頑張れ」という言葉の裏には、「あなたががんばってくれないと、私が困る」という隠された意図も存在することを和田氏は指摘する。親や上司などの「あなたのために言っている」という言葉はあくまでも建前で、本当はただ単に自分にとって都合がいいから言っているだけ。そんな言葉に左右されず、自分の「生きづらい」と感じている思いを優先することが大切なのだ。
さらに本書では、「逃げるための方法」を大きく「その場を離れずに逃げる方法」と「その場から距離を置く方法」の2つに分けて具体的に紹介している。すぐに実践できそうなものも多いので、それらの中から自分に合うものを見つけてみてほしい。たとえば、「書く」という方法は心理学では「昇華」と言われ、自分のモヤモヤした思いを整理することにつながるそう。「課題の分離」という方法は、アドラー心理学で提唱されているもの。もし、ダメな上司のせいでストレスを抱えているならば、その上司がダメなのは「上司の課題だ」と、すっぱりと切り替えるというものだが、そうやって物事の捉え方を変えるだけでも気持ちがラクになるから不思議だ。
和田氏の言葉には何度もハッとさせられてしまう。「もしかして自分は頑張りすぎてきたのかもしれない」と気付かされ、「逃げる」ことも決して悪いことではないということが分かってくる。なんだか背中を押されたような気分だ。今がつらい人、大切な人がつらそうにしていることが心配な人は、きっとこの本に救われるに違いない。「逃げる」ことは、生きのびるためにときには必要なこと。あなたも「逃げる」選択肢を選んでみてはいかがだろうか。
文=アサトーミナミ