次に、アダム・シャオ・イム・ファの写真を取り上げます。最近、コレオシークエンスの中で、バタフライ、デスドロップのバリエーションを取り入れる男子選手が多く見られます。実はこれ、写真としては簡単に撮れる部類です。一瞬前に跳ぶことが分かるので、待ち構えて撮れるんです。この場合も、踏み切りから着氷まで全て押さえてあって、その中からこの1枚を選んであります。似たような写真としては、バレエジャンプ、スピンのエントランスも同様に簡単です。意外に思われるかもしれませんが、何気ない一瞬の表情を撮影する方が遥かに難しいんです。
男子の写真でもう一枚取り上げます。ケビン・エイモズです。彼はこういうアクロバティックな動きが得意なのですが、驚くことにこの写真、踏み切り直前です。ここまで頭を下げて、まだ離氷していないんです。この後、頭の位置は固定したまま、腰から下だけを回します。これはジェイソン・ブラウンのバタフライも同様なんですが、上手な人は頭の位置を安定させて腰から下だけ回してますね。写真を撮っているとそんなことも分かります。
かつてKADOKAWAのウォーカープラスでのフィギュアスケートコラムにて、渡辺倫果はノービスの頃から繰り返し取材をさせてもらい、記事にしてきた常連の選手でした。思い出されるのは2014年、羽生結弦さんがさいたまスーパーアリーナの舞台で優勝した世界選手権でのこと。当時は花束やプレゼントの投げ込みがあったので、フラワーガールがリンクサイドに待機していたのですが、その中に渡辺倫果の姿もありました。これは今でもネット上に映像が残っていますが、羽生結弦さんのショートプログラムのフィニッシュポーズ、背景で一緒に右手を突き上げているのが渡辺倫果です。今回、試合前に会場で顔を合わせたときにそのエピソードを振ってみたところ、珍しく恥ずかしがっていましたが、幼少時にフラワーガールとしてリンクに立った世界選手権の舞台に、代表選手として帰ってこれたことは本当に感慨深く思います。当時から底抜けに明るく、時として危なっかしく感じる選手でした。様々なエピソードが思い出されますが、中でも大会直前に交通事故に遭った時は驚かされました。事故後、当時の大石コーチから練習禁止を言い渡されたことを「かすり傷なのに」と不満げに語っていましたが、コーチに話を聞いたところ、「衝撃で空を飛んで、自転車は大破です」との話に唖然としました。その後、中学生にしてカナダに単身渡り練習を積んだのですが、コロナ禍の影響で帰国し、中庭コーチに師事してからは長足の進歩です。もちろんそれまでの練習の蓄積があってこそなのですが、それを花開かせた中庭コーチの手腕は素晴らしいものがあります。今回、エピソードに沿うような笑顔の写真が撮りたかったのですが、残念ながら緊張なのか、気負いなのか、なかなかいい表情を見せてくれませんでした。辛うじてフリーの後半、少し笑顔が見られたところの写真を紹介します。距離が近すぎて、良い構図とは到底言えないのですが、これ以外に笑顔がなかなか見られなかったもので。