井上弘美先生と句から学ぶ俳句、今回は「身体感覚を生かす」がテーマ。「桜は季語が豊富。初花から落花まで、よく観察して詠みましょう」という先生が、2つの名句を解説してくれました。
手をつけて海のつめたき桜か 岸本尚毅
春といえば桜。爛漫と咲き誇る「桜」と「海」を捉えた作品で、作者の代表句です。
桜時の海は霞がかかって、ぼんやりと明るいイメージ。そんな穏やかな青い海と、海を縁取るように咲いている薄紅色の桜。この句には色彩の対比があります。
また、「手をつけて」という具体的な動作によって、まだ冷たい「海」を実感している臨場感があります。「つめたき」を平仮名にすることで「海」と「桜」が鮮やかです。平明にして春の核心を突いた秀句です。
作者は1961年、岡山生まれで、現代を代表する作家の一人。近刊『岸本尚毅集』より。
草に寝て春の星座をたつぷりと 中田尚子
春の夜は朧(おぼろ)という季語が示すように、水蒸気を含んでいるので、星たちも潤むようにまたたきます。
この句は星空を見上げるのに、「草に寝て」いる点が楽しく、草の香りが漂って来そうです。
実際、星座観察には寝転ぶのが一番。
しばし日常を忘れて、星空を満喫できます。
見えて来るのは、獅子座・乙女座・牛飼い座の作る春の正三角形や北斗七星。開放感に満ちた、瑞々しい作品です。
作者は1956年、東京生まれ。女性四人で同人誌「絵空」を創刊し、清新な作品で活躍中。近刊句集『一声』より。