いちにちのひかりが沈む苅田かな/井上弘美先生と句から学ぶ俳句

いちにちのひかりが沈む苅田かな/井上弘美先生と句から学ぶ俳句 pixta_36854219_S.jpg井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。10月は「感性の冴えを読み取る」というテーマでご紹介します。

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古九谷(こくたに)の深むらさきも雁(かり)の頃 細見綾子

秋も深まると、雁や鴨などがシベリアから飛来します。この句の季語は「雁の頃」で、雁が渡って来る頃という意味です。
古九谷は江戸前期に、石川県加賀市九谷町から産出したとされてきた色絵磁器のこと(近年は諸説あります)。大胆な構図と赤・黄・緑・紫・群青などを使った華麗な色彩に特徴があります。中でも「深むらさき」色の美しさが生きるのは晩秋。雁が渡って来るイメージを生かした、感性の鋭い作品です。
作者は一九〇七年、兵庫県生まれ。芸術選奨文部科学大臣賞他を受賞するなど活躍。一九九七年に逝去。享年九十。

 

 
いちにちのひかりが沈む苅田かな 依田善朗(よだぜんろう)

十月は稲刈の季節。早稲は九月に刈り取られていますが、大部分は十月に収穫されます。
この句は、稲刈が終わり、どこまでも広がる「苅田」に、夕日が沈む様子を捉えています。一句の眼目は「いちにちのひかりが沈む」で、普通なら夕日・落日・落暉などを使うところです。しかし、平仮名の効果もあって、「苅田」を染めていた夕日が、まるで大地に吸い取られていくかのように収まってゆく様子が見えるのです。静かに終わる秋の一日が思われます。
作者は一九五七年、東京都生まれ。評論にも優れた作家の近刊句集『転蓬』よりの一句です。

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井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953 年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

 

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この記事は『毎日が発見』2018年10月号に掲載の情報です。

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