井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。1月は「場面を鮮明に」というテーマでご紹介します。
まゆ玉をうつせる昼の鏡かな 久保田万太郎
正月飾りや鏡餅などは、日常生活を晴れやかに彩り、新鮮な気分にしてくれます。
「まゆ玉(繭玉)」は餅花・団子花とも呼ばれる正月の季語。豊作を祈願し、柳などの枝に餅や団子を小さく丸めてつけ、神棚の近くの柱などに飾ります。白と桃色が基本ですが、赤や黄、緑に染めるなど、彩りは地方によってさまざま。この句は、明るい昼の「鏡」に映った「まゆ玉」を捉えて、華やかさを二重にして奥行きを出しています。
作者は一八八九年、東京生まれ。劇作家として活躍しつつ、俳人としても一世を風靡しました。一九六三年没。享年七三。
雪つよくなれば水鳥沖をさし 対中いずみ
冬の水辺でよく見掛けるのは、鴨や鳰(にお)、百合鷗(ゆりかもめ)などで、俳句ではこれらを総称して「水鳥」と呼んでいます。
作者は滋賀県大津市堅田在住。この句は琵琶湖の景でしょう。降り始めた「雪」が強さを増してくるので、「水鳥」たちは湖岸の葦原にでも身を寄せるかと思いきや、沖へと出て行ったというのです。「雪」をものともせぬ姿に、鳥たちの逞(たくま)しさと哀れを感じたのです。しかし、それは荘厳な世界でもあります。
作者は一九五六年、大阪生まれ。清新な作品で俳句研究賞を受賞した作家の第三句集、『水瓶』よりの一句です。