親を介護している人は本誌の読者にも多いと思います。短歌の世界でも介護は大事なテーマとしてよく歌われます。前号で月の歌をご紹介した小島ゆかりさんは介護歴二十年だそうです。
前の記事「中秋の名月を仰ぎ一首詠みましょう/伊藤先生の短歌の時間」
夕陽こんなにうつくしけれど
半端ない
介護の月日もう二十年
最近流行語となった「半端ない」を巧みに取り入れて介護に励んできた日々を歌っています。
歩くさへ全力の母
すぐそこのはるけき
夏の郵便局へ
お母さんがご自分で郵便局に行くと言われたのでしょう。歩くのがやっとなのに......。そこで娘である作者は一緒について行ったのですが、「すぐそこのはるけき」という言い方に注目してください。なるほどと思います。郵便局は実際には「すぐそこの」近距離にあるのです。しかし、やっと歩いている母にはとても遠いのです。言い得て妙の表現ですね。その場面をさらに次のように歌っています。
日ざかりをゆらゆら
母とわれ行けり
たつた二人のキャラバンに似て
猛暑の日に母とゆっくり歩きながら、自分たちはまるで砂漠の中を行く「たつた二人のキャラバン」みたいだと思ったというのです。キャラバンのたとえが深く印象に残りますね。
生き延ぶることは
痛みに耐ふること
ヘルペスのあと母、骨折す
病気と怪我の続いた母に胸を痛め、そして高齢で生きることの辛さを思いやっています。歌には優しい言葉はありませんが、作者の優しさは十分伝わります。
小島さんの作品は『短歌研究』九月号の「あさがほ」の一連よりご紹介しました。
介護されている方、ぜひとも積極的に介護を歌ってみませんか。きっと深い内容の歌ができるはずです。
<伊藤先生の今月の徒然紀行>
日向市で第八回「牧水・短歌甲子園」が八月半ばに行われました。予選を通過した北海道・東北から九州まで十二校が出場して作品を発表し、討論を行い、熱戦を繰り広げました。私は審査委員長でしたが、思わず審査を忘れるほどでした。高校生らしい爽やかな作品を紹介します。
「ぶつかって理解しあえて抱きあって 涙は永遠に光源となる」
(札幌創成高等学校・齋藤若菜)
「目に見えない贈りものしかいりません ないものねだりしちゃってますか」
(横浜翠嵐高等学校・佐藤翔斗)
「向日葵をぐいと見上げる角度にて はじめてひとに贈るくちびる」
(宮崎西高等学校・宮本陽香)
発想の新鮮さに大人が学んだ大会でした。
◇◇◇
<教えてくれた人>
伊藤一彦(いとう・かずひこ)先生
1943年、宮崎市生まれ。歌人。NHK全国短歌大会選考委員。歌誌『心の花』の選者。