「生活を楽しむ」男性は病気に強い
生活習慣病の予防には食事や運動が大切なことはよく知られていますが、生活を楽しもうというポジティブな姿勢も大きく影響しています。
厚生労働省研究班は40~69歳の人を「生活を楽しんでいる」という意識が高いグループと中程度のグループ、低いグループに分けて、脳卒中などの発症リスクと死亡リスクを追跡調査しました。
その結果、生活を楽しむ意識が高いグループの男性に比べて、低いグループの男性は、死亡リスクが脳卒中では1.75倍、心疾患では1.91倍も高いという結果が出ています。
この傾向は男性にのみ見られるもので、女性では意識の差と、病気の発症や死亡リスクとの関連は見られませんでした。勝手な想像ですが、もともと女性は楽しんだり、おもしろがったりするのが上手な人が多いため、男性ほど顕著にデータに現れなかったのではないでしょうか。
たしかに女性は、生活を楽しみ、ストレスの発散が上手です。たとえば、東日本大震災の後、被災者たちが孤立しないように集会所などができましたが、たいてい集まってくるのは女性たち。ちょっとしたお菓子を持ち寄って、「おいしいね」などと楽しんでいる姿をよく目にしました。
楽しんだり、おもしろがったりすると副交感神経が刺激されます。すると、血管は拡張して血圧は下がり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが減ります。リンパ球も増えて、風邪や肺炎にもなりにくくなります。ナチュラルキラー細胞(がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するリンパ系細胞)が増えると、がんにもなりにくくなります。
しかし、男性は仮設住宅に引きこもって、なかなか集会所などに出てきません。どうやって男性を引っ張り出し、いかに楽しみを見つけてもらうか、それが被災者支援の課題の一つでした。
元気のもとはワクワクする好奇心
男性のなかにも楽しむのが上手な人がいます。昨年105歳で亡くなった医師の日野原重明先生です。転んで肋骨を骨折したのがきっかけで、誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしてしまいました。ご自分の意思で、病院で延命治療をすることを断りました。
日野原先生は、好奇心のかたまりでした。『葉っぱのフレディ~いのちの旅~』という絵本をミュージカルにしたり、98歳になって俳句を始めたり、絵を描き始めたりしました。日野原先生が104歳のとき、佐賀に一緒に講演に行きました。日野原先生は30分間、立って講演した後、ぼくが講演をしました。
「鎌田先生の話を久しぶりに聞くよ」と言われたので、舞台のそでの客席からは見えないところにベッドを用意して、横になりながらぼくの話を聞いてくださいました。
1時間半の講演を終えた後、日野原先生のところへ挨拶に行くと、日野原先生はいびきをかいてぐうぐう寝ていました。後でお付きの人に聞くと「鎌田先生の話はおもしろいな」と途中まで聞いていたそうですが、飛行機で九州まで行くだけでもお疲れだったのでしょう。
日野原先生はもう年だから、なんて決めつけず、何でもおもしろがっていました。104歳になるとさすがに足腰が弱くなっていましたが、それでも佐賀へ講演に行きたい、鎌田はどんな話をするのか知りたい、と好奇心をもっていることがわかりました。これが日野原先生の最期までパワフルに生きる原動力になっていたように思います。
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鎌田 實(かまた・みのる)さん
1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『人間の値打ち』(集英社新書)、『だまされない』(KADOKAWA)。