地元・福島への愛を歌に詠む/伊藤先生の短歌の時間

地元・福島への愛を歌に詠む/伊藤先生の短歌の時間 pixta_41836184_S.jpg短歌の題材には、何も制限はありません。家族の歌、仕事の歌、自然の歌、社会の歌など、自分が関心を持っているテーマを自由に歌っていいのです。また、歌集を読むと、その歌人が何に関心を持っているのかがよく分かります。

最近出版された本田一弘さんの歌集『あらがね』(ながらみ書房)は、彼がいかに自分の生きている土地に愛着を抱いているのかが分かります。本田さんは会津若松市に暮らしています。福島県は「東日本大震災(3・11)」で多数の死者・行方不明者を出し、原発事故のため多くの人々が今も生活の困難を強いられています。

 

 さんぐわつじふいちにあらなく
 みちのくは
 サングワヅジフイヂニヂの
 儘(まま)なり

『あらがね』に収められている歌です。テレビの報道などで「さんぐわつじふいち」とか「さんてんいちいち」とか言われていますが、本田さんにとってそれは遠い感じで、「サングワヅジフイヂニヂ」と言わないと実感を伴わないと歌っているのだと思います。
そのこだわりには住んでいる土地への愛着があります。そして、福島県の苦悩と困難を県外の人がどれだけ分かっているだろうかと。

 

 はつ夏のひかりも鋤(す)かれ
 ゆつくりとふくらみてゆく
 真土のからだ

「真土」とは耕作に適する良質の土のことです。本来の福島県の土です。「ひかりも鋤かれ」「真土のからだ」の表現に郷土讃歌があります。

 

 ふくしまの空気を吸つて
 熟(みの)りたるあかつきといふ
 桃のゐさらひ

福島県の桃は美味しいですね。「ゐさらひ」とは"お尻"の意味です。桃への親しみがユーモラスに伝わります。本田さんの志を示す歌をもう一首紹介します。

 

 わが姓に田のあることを
 誇ろへば
 会津の田居(たゐ)となれるわれはも

 

 

< 今月の徒然紀行 1 >
昨年「ふらんす堂」という出版社のホームページに、1日1首の新作を、短文を添えて発表する連載をしました。その歌をまとめてこの6月に『光の庭』として出版しました。365首の短歌が並んでいます。1年間よく休まずに新作を発表できたなと、我ながら!思います。自宅の庭の植物のあれこれを歌った作が多いので『光の庭』というタイトルにしました。

 

 からすらに土産は要らず
 庭のブルーベリー
 しつかり食べてをりけり

8月1日の歌です。東北旅行から帰ってきたら、庭のブルーベリーの実があらかたなくなっていました。うまかっただろうな。

 

※他の短歌に関する記事はこちら。

 

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伊藤一彦(いとう・かずひこ)先生

1943年、宮崎市生まれ。歌人。NHK全国短歌大会選考委員。歌誌『心の花』の選者。撮影/吉澤広哉

この記事は『毎日が発見』2018年8月号に掲載の情報です。

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