フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。
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「自分たちのサッカー」というジレンマ
サッカーは2つのチームの22人が同じピッチ上で得点を奪い合うスポーツです。自分たちのチームに戦術があるのと同じように、相手にも戦術があります。対戦相手に応じて戦い方は変わりますし、対面する選手によって駆け引きも変わってきます。サッカーは、それぐらい綿密に計算し、頭を使わなければいけないスポーツだと思っています。だからこそやりがいがあるのも事実です。
よく「自分たちのサッカー」という言葉を聞きますが、僕はこの表現があまり好きではありません。サッカーは世界でもっとも競技人口の多いスポーツですが、全世界のなかでも「自分たちのサッカー」を貫くことができているのは一握りの国やチームしかないと思っています。
たとえば、パスをつなぎながらボールを保持して攻撃を仕掛けていくポゼッションサッカーを志向していても、常に相手よりボール支配率で上回って勝利を収められるのは、世界中を見渡してもFCバルセロナぐらいでしょう。仮に「自分たちのサッカー」がポゼッションだとして、対戦相手がそれ以上にポゼッション能力の高いチームだったら「自分たちのサッカー」ができなくなるわけです。「自分たちのサッカーができなかったから勝てない」とは言いたくないですし、だったら勝つためにはどうすればいいのかを考えなければいけません。
2004年のEURO(ヨーロッパ選手権)で優勝したギリシャは、守ってカウンターという戦い方を貫いていました。面白味やエンターテインメント性には欠けていたかもしれませんが、彼らはEUROで勝つためにリアリストに徹し、実際に結果を残したのです。
日本がワールドカップで勝利するには、ギリシャのようにリアリストに徹することができるかに懸かっていると思います。日本から見れば、ギリシャの選手は個々のクオリティーも高いです。その彼らが徹底したカウンターの戦い方を選んだわけですから、僕たちが自惚(うぬ)ぼれてはいけません。しかし、日本では自陣に引いて守備を固めて、カウンター一辺倒のサッカーで勝利しても批判されることがあります。
2014年のブラジル・ワールドカップで、日本はリアリストのギリシャと対戦しました。相手を崩せたのかと言ったら、結果は0対0の引き分けでしたし、決勝トーナメントに進んだのはリアリストのギリシャのほうでした。実際に南アフリカ・ワールドカップの日本代表は、リアリストに徹して決勝トーナメントまで進みました。僕も出場したロンドン・オリンピックでは引いてカウンターのチームだったし、そのリアリストに徹した戦術にハマったからスペインに勝ち、そこでチームの自信が深まって、僕たちは4位まで勝ち上がることができたと思っています。
覚悟を決めるとチャンスが増える
日本は、アジアではほとんどの国との対戦でボールを支配することができますが、ワールドカップのような世界の強豪ひしめく大会で勝ち上がっていくためには、まずは自分たちがどのあたりの位置にいるかをしっかり把握して、結果のためにリアリストになる覚悟が必要なんだと思います。
ロシア・ワールドカップで対戦するコロンビア、セネガル、ポーランドは、どこも強い国です。しかし、どんなに相手が強くても、10回戦えば、そのうち1、2回は勝つ可能性が出てくるのがサッカーの面白いところです。その1、2回をワールドカップで出すことで、僕たちの自信も変わっていくと思います。
プライドを持つことは大切です。しかし、体裁だけを気にした妙なプライドであれば必要ありません。妙なプライドが邪魔をして、体裁や見栄にこだわり続けた挙げ句、結果を出せずに自信を喪失し悪循環に入ってしまっては危険です。僕の経験上、プライドを捨て、なりふり構わず行動ができるようになったときほど、成長するチャンスが訪れるように思います。
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撮影/千葉 格
酒井 宏樹(さかい ひろき)
1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。
『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』
(酒井 宏樹/KADOKAWA)
「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!