酒井宏樹「もがいて、這い上がって、本当に自分の限界点まで到達する」/リセットする力

酒井宏樹「もがいて、這い上がって、本当に自分の限界点まで到達する」/リセットする力 24051806.jpgフランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。

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「かなわない」というポジティブ思考

マルセイユでは、日々の練習や試合からチームメートの能力の高さを強く感じるようになっています。

ハノーファー時代にも、FCバイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントのようなリーグ上位の世界的な強豪クラブとの対戦はありました。しかし1シーズンにホームとアウェーの2度の対戦だけでは、彼らの能力を感じる機会は少ないですし、どうしても対戦相手という目線で見てしまうため、力の差があっても彼らには負けたくない、力の差を認めたくないという気持ちが働いてしまいます。

しかし、マルセイユに来て、フロリアンやディミトリ、その他の各国代表選手のハイレベルなプレーを毎日目の当たりにしていると、彼らのような特別な才能と自分との実力差は相当な開きがあると認めざるを得ない。そこで「彼らにはかなわない」「彼らを越えることはできない」と割り切るというか、いい意味で切り替えるのは、自分としてはありだと思っています。

マルセイユという大きなクラブに来て、サッカー選手として上の景色を見ることができたうえで「ああ、ワールドクラスの選手って、本当にすごいんだな」と実感できた。それで悔しいという気持ちが起こらないのは、自分の持つサッカー選手としての能力の最高到達点に来たのかなという思いがあります。

日本人の若いサッカー選手のなかには「自分が世界でどの位置にいるかを知りたい」と話す人がいます。サッカー選手として、自分の位置を知ることはすごく幸せなことですし、だからこそ海外挑戦はとても意味のあることです。

もちろん応援している人たち、ファン、サポーター、家族、友人は、いまの僕に対して「諦めるな」「努力すればもっと上に行けるよ」と叱咤激励してくれると思いますが、自分なりにもがきながらサッカー選手としての最高到達点まで這い上がってきて、仲間に対して「かなわない」と感じることは単純に素晴らしいことであり、まさに選手冥利に尽きることだなと思っています。マルセイユというクラブが、僕の知らない世界、まだ見たこともない世界まで連れてきてくれたわけですから。

サッカー選手個人として、できることをやり尽くし、そのうえでフロリアンやディミトリといった世界最高峰レベルには「かなわない」と感じるからこそ、世界トップレベルまで来られた事実に自信が深まりました。だから、これは「諦め」という感覚とはまったく違います。

 
自分で勝手に限界を決めていないか

「諦めているのか」と聞かれれば、むしろ僕は諦めてはいません。マルセイユが僕を拾ってくれたように、この先自分が想像できないようなレベルの高いクラブから声をかけてもらうことは、ワールドカップの結果次第では可能だと思っています。ここまで来ると自分個人の能力というより、チームメートとの相性や相乗効果でその壁を乗り越えられるのではないかと考えています。

そのステップアップを見据えながら、いまの僕はこの先に海外挑戦する日本人選手が有利になるように、しっかり自分が良いパフォーマンスをして、フランス国内で日本人の評価を上げていこうと思っています。日本には僕より才能のある選手がたくさんいます。彼らが今後海外に挑戦すると信じて、そのときに彼らがプレーしやすいように土台を整えておく。決して「日本人だからうまくいかない」「日本人だから活躍できない」とマイナスのスタートをさせないようにする。
「酒井がフランスで活躍できなかったから、フランスのクラブは日本人選手を取らなくなった」と言われるのは絶対に嫌ですからね。

自分自身で勝手に限界線を引き、「自分は一生懸命やっているけど、ここまでが限界なんだ」と決めつけてしまうのは、自分に自信がないからではないでしょうか。そして、そうした場合の多くは、やらない自分を正当化する「言い訳」になっているように思います。

もがいて、這い上がって、本当に自分の限界点まで到達したときには、自信を失うどころか、むしろ「ここまで来ることができたんだ」という大きな自信が生まれます。

 

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撮影/千葉 格

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酒井 宏樹(さかい ひろき)

1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。

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『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』

(酒井 宏樹/KADOKAWA)

「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!

 
この記事は書籍『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46」』からの抜粋です。
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