岸見一郎さんがすすめる「学ぶこと、知ることの本質を考えさせる本」/年末年始に読みたい良書

本誌連載陣らがおすすめする年末年始に読みたい良書。今回は、岸見一郎さんがすすめる「学ぶこと、知ることの本質を考えさせる本」です。

岸見一郎さんがすすめる「学ぶこと、知ることの本質を考えさせる本」


全力投球の言葉で綴る20の往復書簡

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『急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂/著 晶文社1,760円(税込)

(1)は哲学者・宮野真生子と人類学者・磯野真穂の往復書簡集。

突然、重病に罹患していることがわかれば、否応なく死と向き合い人生の意味を問わないわけにいかない。

生きる意味を問うために学ぶようになる宮野は未完結なままに残ったものは「その人が生きていた/生きようとしていた痕跡」だという。

生を完結させなくてもいいと思えれば、「今ここ」を生きることに専心できるだろう。

宮野は本書の校正の途中で「痕跡」を残して亡くなった。

「学ぶ」のはただ知識を得るためではない。

理不尽な現実を疑い、批判しなければならない。

ずっと傾いたところにいれば、それが正常だと思ってしまう。

学ぶことで自分の立ち位置が見えてくると、社会の歪みもわかる。


セウォル号の惨事。傾いた社会への告発

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『』キム・ヨンス、ファン・ジョンウン他/著 新泉社 2,090円(税込)

(2)では、セウォル号事件をめぐる韓国を代表する小説家、詩人、学者たちが、命を奪われ声を上げられない人たちに代わって傾いた社会を告発している。

ファン・ジョンウンが引く子どもに宛てた親の手紙が心を打つ。

「母さん、父さんは泣いてばかりいないで闘うよ」。

死者とのつながりは失せず、生者の人生を変える。

本を読むと、普段あまり意識することがないことに気づかされる。

幼い子どもは周りの大人が発する言葉に一心に耳を傾け、覚えた言葉で懸命に意思を伝えようとするが、大人になると言葉についてあまり考えなくなる。


独特の言葉遣いで綴られる作品集

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2022年刊『カタコトのうわごと 新版』多和田葉子/著 青土社1,980円(税込)

(3)はドイツ語でも小説を発表している多和田葉子のエッセイ集。

どれを読んでも、言葉にいかに無頓着であるかに気づかされ、多和田の圧倒的な知性と感性に目が眩くらむ思いがする。

母語で書かれた本を読み直してみようと思う。

これまで知らなかった言語を学んでみようと思う。

言葉に敏感になれば人生が変わる。

取材・文/寳田真由美(オフィス・エム)

 

岸見一郎(きしみ・いちろう)さん

1956年、京都府生まれ。哲学者。専門は、ギリシア哲学、アドラー心理学。本誌で「生活の哲学」を好評連載中。

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『ゆっくり学ぶ 人生が変わる知の作り方』

(岸見一郎/集英社)

1,650円(税込)
知らないことを知るのは本来喜びのはずであるが、子どもの頃から知識を覚え込むことが学びだと思ってきた人は多いかもしれない。結果を出すためではなく、学んでいる「今」を楽しめるようになれば人生も変わる。

この記事は『毎日が発見』2022年12月号に掲載の情報です。

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