本誌連載「老後に備えない生き方」でおなじみの岸見一郎先生は、精神科などで長年、カウンセリングを行い、親子問題、家庭問題の相談も多く担当してきました。ご専門のアドラー心理学を軸に、親子関係を幸せにする4つの考え方を伺いました。
「結婚しない」は誰の課題なのか
子どもが結婚しないという悩みもよく聞きますが、いまは40代、50代で結婚していなくてもそんなに珍しくない。
生涯結婚しない人生があっても構わないと思うのです。
親の方が「結婚させないといけない」「結婚しないと人間としてどうか」という固定観念から脱却するしかない。
結婚しない人はたくさんいますからね。
そういうことを深刻にならずに親子で言えるようになるといいですね。
笑いが出るようになるとずいぶん関係は変わってきます。
親子関係のカウンセリングでは、協力することが最終目標で、課題の分離は入り口です。
誰の課題かということをはっきりさせないと協力もできません。
親はその課題の分離が分からないから、子どもが仕事をしない、結婚しないということを、自分の問題だと思っているわけです。
せめて親はもっと正直になった方がいい。
「あなたが結婚しなければ私の世間体が悪い」と言う方がまだいいのです。
「あなたのために」と言うから変な話になるのです。
出典:「平成30年版少子化社会対策白書」1970年から2015年までは各年の国勢調査に基づく
実績値(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」
2020年以降は推計値(「日本の世帯数の将来推計、全国推計2018年推計」を基に内閣府作成)であり、2015年の国勢調査を基に推計を行ったもの。
アドラー心理学では、よい人間関係を築くというときに4つの条件があります。
「相互尊敬」が一番です。
自分が先に相手を尊敬するということです。
子どもの方が親を尊敬するかしないかは関係ありません。
まず親が子どもを尊敬する。
具体的に言うと、ありのままの子どもを受け入れるということです。
病気であろうと、問題を起こしていようと、ひきこもっていようと、親の理想と違っていようと受け入れる。
子どもが小さいときにはありのままを受け入れていたはずです。
ニコニコ笑っていただけで受け入れていた、そのときの感覚を思い出してほしい。
2番目は、「相互信頼」です。
これも相互という言葉を使いました。
自分が先に相手を信頼するということです。
多くの場合、親は子どもを信頼できないのです。
「明日から学校に行く」と言ったら、「またすぐ行かなくなるでしょう」と言ったらいけないのです。
子どもが行くと言ったら、「がんばってね」と言えばいいのです。
相手が自分を信頼するかは分からない。
でも私はとにかくこの子を信ずる、という信頼です。
3つ目は「協力作業」です。
問題を解決するときに一人で解決しようとしてはいけない。
子どもがこれからの人生をどう生きていくかということをめぐって、親子で相談できる関係を築けているかどうかです。
答えは出なくてもいいのです。
4つ目は「目標の一致」です。
カウンセリングでもいちばん大事ですね。
目標が一致していないと、ほかの3つの条件がクリアできていても、いい関係にはなれません。
ひきこもりの話でいうと、目標の不一致です。
親は働けと言い、子どもは働かないと言う。
どちらかに合わせるしかないのです。
どちらに合わせたらいいか。
これは自明です。
子どもの人生だから、子どもの目標に合わせるしかないのです。
子どもが結婚しないと言ったら、子どもの目標に親が合わせるしかないので、嫌がっている子どもに結婚させることはできない。
そういうふうに考えるとすごくクリアになると思います。
氷河期世代の問題は、社会的な問題があって、結婚したいと思ってもできないという人も多い。
いまは、経済的に無理だと思わざるを得ない状況がありますからね。
でも人間の尊厳ということをいつも考えるのですが、どんな困難な状況にあっても自分の人生を選ぶ力があるということを知っておかないといけないのです。
われわれはそういう環境の犠牲者では決してありません。
貧しいからといって、幸せになれないわけではない、と思いますね。
つらい境遇にあるのは、氷河期世代だけではなくて、誰でもそうです。
自分で求めて願って生まれた人は誰もいません。
でもそこから始めるしかないだろうと思います。
難しいですけどね。