親の介護で疲弊する子、こじれる関係...。さまざまな問題を抱える家庭での介護ですが、認知症を患った実父の介護の中で、専門とするアドラー心理学に「親との対人関係上の問題について、解決の糸口を見いだせる」と哲学者・岸見一郎さんは感じたそうです。今回は、そんな岸見さんの著書『先に亡くなる親といい関係を築くためのアドラー心理学』(文響社)から、哲学者が介護者の目線で気づいたことをご紹介します。
老いを肯定的に見る
若いことにこそ価値があると思う親は、老化は何としても避けたいと思います。
しかし、それは叶わぬことです。
子どもにいわれるまでもなく、自分でも現実の自分を理想の自分から引き算して見ているわけです。
「むかしと変わらないなんて言葉は、ただごまかしかもしれない。そもそも年齢の変化がきちんと表に出ることを、なぜ厭わなければならないのだろう」(堀江敏幸『めぐらし屋』)
堀江敏幸は小説中の登場人物の一人にこんなふうにいわせています。
年齢を重ねても、それが外からはあまりわからず、いつまでも若く見られたいと思う人は多いでしょうが、若く「見える」というだけであって、実際に若くあるということは不可能なことです。
人生は後戻りはできません。
身体も同じです。
不可逆的であり、老化から誰も逃れることはできません。
人は歳を重ねていきますが、しかし、それはただ若さからの後退を意味するわけではありません。
歳を重ねることに肯定的な意味を見出すこともできるはずです。
もしもそうすることを親ができなければ、まわりにいる人が老いを肯定的に見られるように援助したいのです。