「赤い印の蛇口はお湯が出る」って思いますよね? 上手に説明するテクニック「自然の発想に逆らわない」

仕事や家庭で、自分の言いたいことがうまく伝えられない。それは、「正しい伝え方」ができていないからかもしれません。そんな悩みが解決できるテクニックがまとめられた書籍『新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール』(藤沢浩治/文響社)から、「正しく伝わる表現方法」を一部抜粋してご紹介します。

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赤い蛇口はお湯が出る

分かりやすい情報発信のためには、受け手の自然な発想を考慮することもきわめて重要です。

たとえば、初めて泊まったホテルの浴室に、蛇口が二つあります。

お湯か水かの文字表示はありません。

ただ、一方の蛇口には赤、他方の蛇口には青の印がついています。

あなたが水を出したかったら、どちらの蛇口をひねりますか。

言うまでもなく、ほとんどの人は青の蛇口が水だろうと自然に発想します。

青は水、赤はお湯と表示すると、法律で決められているわけではありません。

学校で習ったわけでもありません。

自然な発想にあわせて、そのような表示が広く社会で受け入れられているのです。

「分かる」とは、新たな情報を、すでに持っている情報構造と照らし合わせ、脳の区分けされた整理棚に収めることです。

自然な発想とは、この、すでに持っている情報構造なのです。

「多分、この情報は、この区画だろう」という仮説が自然発想なのです。

したがって、なるべく、そのすでに持っている情報構造(自然発想)に近い形の情報のほうが、照合作業が楽になり「分かりやすく」なるのです。

日常生活のほとんどは、この自然発想にもとづいて営まれています。

もしも先ほどのホテルで、赤い蛇口から水が出て、青い蛇口からお湯が出たら、フロントに苦情が殺到するでしょう。

また、たとえばレストランに行っても、私たちは一般化された一連の流れを知識として持っています。

メニューから食べたい物を選んで、注文する。

待っているとやがて注文した料理と、請求書がテーブルに届けられる。

食べる。

レジでお金を払う。

店を出て行く......。

シャンクとアベルソンは、このような日常生活で当然のこととして予想、期待する一連の動きを、スクリプト(台本)と呼んでいます。

私たちはこうした一般化、抽象化された一連の流れ、すなわちスクリプト(台本)を二次記憶域の中に持っているのです。

新しい体験、情報がこのスクリプトに沿っていれば、それを「分かりやすい」と感じます。

逆に、このスクリプトに一致しない場合、たとえばレストランに入ってテーブルに着いたとき「先に泳ぎますか、それともサルの餌を作りますか?」などと尋ねられれば、スクリプトにない新しい体験なので、理解不能に陥るのです。

このように「自然発想に逆らう」ことが起こると、整理棚内に該当する区画がないので、その事態をどう解釈してよいのやら、「分かりにくい」ということになります。

受け手に合わせた自然発想

しかし、何を当然と思うかは受け手が属する集団の文化にもよります。

仮に「青=お湯」が一般的な国があったら、「分かりやすい」表示は日本とは異なってしまうわけです。

したがって、情報発信に際しては、受け手のプロフィールを決め、その受け手が何を自然と思うかを考える必要があります。

たとえば、国産車なら、方向指示器レバーを右、ワイパー・レバーを左に付け、米国向け輸出車なら逆に、方向指示器レバーを左、ワイパー・レバーを右に付けることと同じです。

消える駐車場

また、私の家の近くに大型ショッピング・モールがあります。

休日に車でそのモールに行くと、モール内の大きな駐車場も満車のことが多いので、隣の公営駐車場ビルを使います。

公営駐車場ビルとモールは隣接し、一本の連絡通路で結ばれています。

問題は、その連絡通路が、公営駐車場側では五階なのですが、モール側では四階になることです。

公営駐車場から連絡通路を通る人々は「連絡通路は五階」と覚えながらモールに入っていきます。

そこで、買い物を終えて公営駐車場に戻ろうとする人の多くは、モールの五階に行き、あるはずのない連絡通路を探してウロウロするのです。

「駐車場ビルの五階にある連絡通路でつながっているなら、モールも五階だろう」というのが自然な発想です。

その自然発想を裏切っているのです。

初めてこのモールに来た人は、公営駐車場に戻ろうとすると、ほとんど迷うのです。

三年ほど前にモールに改善を申し入れたのですが、この本の執筆時点でも「公営駐車場への連絡通路は当店四階です」のような簡単な貼り紙一枚さえ見当たりません。

簡単で安価な改善で、多くの大切なお客様をムダな迷いから救えるのにもかかわらず。

工業製品にも、この「自然発想を裏切るな」の原則は活かされています。

たとえばテレビのリモコンで「ボリュームを上げる」は上向き矢印のボタンを押し、「ボリュームを下げる」は下向きのボタンを押します。

あるいはガス・コンロのバーナーと、そのバーナーの火力調節ツマミの位置を対応させ、バーナーが右ならツマミも右、バーナーが左ならツマミも左になっています。

次のルールも、とても大切なことがお分かりいただけたと思います。

分かりやすい表現のルール「自然発想に逆らうな。」

【最初から読む】大切なのはサービス精神!読み手への配慮がわかりやすさを生む

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ベストセラーの新装版。分かりにくい表現16の原因と解決方法を全4章で紹介しています

 

藤沢浩治(ふじさわ・こうじ)
慶應義塾大学卒業。「分かりやすく伝える技術」をテーマに企業向けの研修や講演などで活躍中。『「分かりやすい説明」の技術』、『「分かりやすい文章」の技術』、『「分かりやすい表現」の技術』など、講談社・ブルーバックスのシリーズが合計65万部を超える。3部作のほかに『頭のいい段取り・すぐできるコツ』(三笠書房)、など著書多数。

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『新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール』

(藤沢浩治/文響社)

抽象的でわからない、図解が見づらいなど言われたことはありませんか?そのままでは伝えたい情報が正しく伝わらず、誤解を招きかねません。情報を正しく伝えられない16の原因を知れば、わかりやすい表現が見えてきます。表現の達人になれる極意を教える新装版です。

※この記事は『新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール』(藤沢浩治/文響社)からの抜粋です。

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