仕事や家庭で、自分の言いたいことがうまく伝えられない。それは、「正しい伝え方」ができていないからかもしれません。そんな悩みが解決できるテクニックがまとめられた書籍『新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール』(藤沢浩治/文響社)から、「正しく伝わる表現方法」を一部抜粋してご紹介します。
反論広告のミステーク
受け手のプロフィールは幅広い概念です。
発信する情報に対して「関心のあるグループ」「関心のないグループ」という項目も重要です。
受け手プロフィール設定の際、この項目を誤った場合も、分かりにくい情報発信となることがあります。
文章であろうと製品説明プロモーション・ビデオであろうと、もともと受け手があまり関心を持っていない情報を発信する場合は、とくに大切な項目です。
ある食品会社が、自社製品に「環境ホルモンが混入している」と疑われたことに対して、新聞などに反論(意見広告)を掲載したことがありました。
例3―4(上)は事実関係などは変えてありますが、実際の意見広告と同じような趣旨と構成の文章です。
これは、読者の視点など考慮せず、自分の会社の発想だけで書いている例です。
会社にとっては死活問題でしょうが、読者にとっては、その製品を買わなければそれですむだけのことです。
そんな人たちがこの文章を読んでくれるでしょうか。
この場合、たとえば改善例のようにしてみたらどうでしょう。
これなら関心の薄い読者にも、短時間で主張が伝わるのではないでしょうか。
熱意ある受け手ばかりではない
妻の話では、昼間、家にはいろいろなセールスマンが来るそうです。
もともと妻は、ほとんどの商品を買う気がありません。
それに対して、セールスマンの対応には二つのタイプがあるといいます。
妻の買う気、すなわち顧客の態度、熱意とは無関係に、会社で教わったマニュアル通りの対応をするセールスマンと、顧客の反応に応じて説明の仕方を変えるセールスマンです。
戸別訪問のセールスマン、つまり情報の送り手は、顧客、すなわち情報の受け手と対面しており、常に受け手の熱意をモニターしながら、リアルタイムでそれに応じることができます。
そんな状況にもかかわらず、受け手の熱意、関心度という貴重な情報を活かそうとしないのは、駄目セールスマンです。
聴衆の存在を忘れて、一人早口でしゃべる講演者も基本的には同じです。
しかし、情報伝達は、送り手と受け手が対面するような方式ばかりではありません。
たとえば、筆者である私は情報の送り手であり、読者であるあなたは受け手です。
送り手の私は、この文章を書きながら受け手のあなたの顔色をうかがうことはできません。
つまり、現在書いているこの文章に対するあなたの関心度、熱意をモニターしながら、それに応じて文言を適宜変えることなど不可能です。
このように、執筆時に読者の反応が見えないので、筆者は、へたをすると受け手の熱意の程度を無視する駄目セールスマンと同じ失敗を犯す危険性があります。
とくに自分の主張、文章、表現に自己陶酔してしまう場合にその危険があります。
情報の受け手である読者の存在を忘れてしまい、唯我独尊状態になりやすいのです。
筆者が発信したい情報について、必ずしも読み手も同じ程度に関心、熱意があるとは限りません。
もちろん、中には筆者と温度差のない熱心な読者も当然いるでしょう。
しかし「少し大袈裟な」と懐疑的姿勢を取る(温度差のある)読者もいるはずです。
それにもかかわらず、筆者が、自分と温度差のない読者だけを想定して本を書けば、受け手の熱意の読み違い、という失敗を犯すことになります。
温度差のない読者だけを想定して書く文章は、温度差のある読者にとっては「分かりにくい表現」となってしまいます。
場合によっては「分かりにくい」以前に、「読んでもらえない」文章になってしまいます。
熱意ある受け手、すなわち読者なら、少しくらい分かりづらい表現があっても、自ら情報整理という仕事を従順にやってくれます。
しかし、熱意のない読者は、中途放棄という強権発動をするでしょう。
あまりカレーライスを食べたいと思っていない人に、カレーの材料だけを放り投げても駄目なのです。
食べてもらうには、キチンと料理して出さなくてはいけません。
このように、送り手と受け手との熱意の違い、つまり「温度差」をどれだけ考慮するかも、「分かりやすい表現」のポイントになります。
分かりやすい表現のルール「「受け手」の熱意を見極めよ。」
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ベストセラーの新装版。分かりにくい表現16の原因と解決方法を全4章で紹介しています