「見つからないよう屋根の上で読書した子供時代」小説家・新井素子さんインタビュー(前編)

高校2年生のときに小説家としてデビューした新井素子さん。以来、40年以上にわたり、さまざまな作品を世に送り出しています。子供時代の様子や、小説家デビューに至る経緯についてお聞きしました。

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子ども時代は読書と物語作りに夢中

――子どもの頃は、どんなお子さんだったのでしょうか?

私は外で遊ぶのがキライな子どもで、家でずっと本を読んで過ごしていました。

両親と両祖父が講談社の編集者だったのと、父が読書好きで家にたくさんの本があったので、本はとても身近でした。

私が本ばかり読んでいたので、忙しい両親に代わって私と妹の面倒を見てくれていた父方の祖母に、「目が悪くなるから、本を読むのをやめなさい!」と、よく言われました。

父が日常生活にメガネが欠かせなかったので、祖母は私の視力を心配していたのだと思います。

でも子どもって、自分が好きなことを注意されると、余計にやりたくなるものでしょ?

私もそうでした。

祖母に見つからないように、物置や屋根の上で本を読むこともありました。

でも、物置は薄暗いし、屋根の上は明る過ぎて、結局、目には良くなかったですね(笑)。

――物語はいつ頃から書いていたのですか?

物心がついて、字が書けるようになった頃からです。

家にたくさんあった出版社名入りの原稿用紙の不要なものを親からもらい、童話を書いていたのを覚えています。

小学生になってからは、推理小説です。

4年生のときに家の別棟の書庫で見つけたシャーロック・ホームズやエラリー・クイーンのシリーズを読み、海外作品に影響を受けた物語を書いていました。

中学1年生のときに、星新一さんのSF作品にハマったんです。

その後、平井和正さんの作品を読むようになり、長編の作品を書き始めました。

――家にある本を読むだけでなく、本を購入することもありましたか?

高校生になると、やりくりして本を買っていました。

私は駅からバス通学だったので、定期代を本代に回すために、定期を3カ月分購入するところを、1カ月分ずつ買ったことにして着服。

そうすると月に3千円くらい浮くので、ハードカバーが3冊買えたんです。

徒歩で通学したため、雨の日は大変でしたね。

でも、バスに乗るとバス代で本の購入が遠のくので、頑張って歩いていました。

新人賞の佳作受賞でSF小説家の道が拓けた

――高校生のときに小説家としてデビューされましたが、きっかけは新人賞の応募だったんですよね?

高校1年生のときに応募した『第1回奇想天外SF新人賞』(主催・奇想天外社)で佳作を受賞して、それが小説家デビューにつながりました。

当時、SF小説のコンテストは頻繁には開催されていなかったので、公募を見つけたとき「これを逃したら次は、私が30歳を過ぎた頃かもしれない!」と思ったんです。

それで、「青春の記念」という気持ちで、応募しました。

――新人賞で佳作を取ったとき、ご両親は何かおっしゃっていましたか?

両親からは「小説家は有名な賞を取っても、ほとんどの人が食べていけない世界。ましてや世間に知られていない新人賞の佳作を取ったからといって食べていけるわけがない」と言われました。

出版社の現役編集者の意見は現実に裏打ちされていて、説得力がありました。

両親には、「2年間食べていけるだけの貯金を作りなさい。それができなければ、大学出たら就職すること」とも言われました。

高校2年生で1冊目の本を出版。大学入学後『コバルト文庫』(集英社)に小説を執筆しているうち、なんとか蓄えができて、小説家を続けるための条件がクリアできたのです。

小説家はものすごくアップダウンのある商売ですから、親が本当に納得していたかは分かりません。きっと、あきらめられたのでしょうね(笑)。

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取材・文/マルヤマミエコ 撮影/兵頭理奈

 

新井素子(あらい・もとこ)さん
1960年、東京都生まれ。77年『あたしの中の……』で奇想天外SF新人賞の佳作を受賞しデビュー。99年『チグリスとユーフラテス』で日本SF大賞を受賞、その他受賞歴多数。『いつか猫になる日まで』『ひとめあなたに…』『未来へ……』など著書多数。

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『絶対猫から動かない』

(新井素子/KADOKAWA)

17歳で作家キャリアをスタートさせた日本SF界のレジェンド新井素子が贈る、「普通の大人」の冒険小説。両親の介護、発達障害の子どもと向き合う難しさ、老後の不安など、「いま」を生きる大人世代のリアルな悩みを織り込んだ共感エンタテインメント。

この記事は『毎日が発見』2020年6月号に掲載の情報です。

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