『魔女の宅急便』の主人公はなぜ1つしか魔法が使えないのか。作家・角野栄子さんインタビュー

代表作『魔女の宅急便』をはじめ、数々の作品を生み出してきた児童文学作家の角野栄子さん。一昨年「国際アンデルセン賞」を受賞され、去年はエッセイ集も発売されました。いまの気持ちや今後の夢を教えてくださいました。

インタビュー前編はこちら:『魔女の宅急便』など250作以上!作家・角野栄子さんの「創作の原動力」

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眼鏡にワンピースがトレードマークの角野さん。

誰もが一つ、魔法を持っている

まさに、『魔女の宅急便』は想像力と冒険心から生まれたファンタジー小説だと思います。また、物語に登場する魔女といえば、たいてい老婆ですが、「幼くてかわいい魔女」を描いたのはなぜでしょうか?

発想のヒントは、娘が12歳の時に描いた魔女の絵でした。

黒いマントを着たかわいい魔女が、ほうきの後ろに黒猫を乗せて飛んでいる。

柄にはラジオがつるされていて、周りには音符が踊っていました。

私が好きなファンタジーは、完全な架空の世界ではなく、日常の暮らしが垣間見えるもの。

だから、「魔女がラジオを聴くなんて面白い」と引き込まれました。

そして、主人公を娘と同じ12~13歳に設定して、使える魔法はただ一つ、空を飛ぶこと、それだけ決めて物語を書き始めたんです。

なぜ、使える魔法を一つにしたのですか?

いろんな魔法を使えたら、どんなことも解決できてしまって、物語がつまらなくなるでしょ?

使える魔法が一つだと、工夫が生まれて物語も面白くなる。

魔法は想像する力と言ってもいいかもしれません。

心が動くと、だんだんとその人の魔法が育っていくもの。

そして、それはキキに限らず、私たち誰もが持っているものだと思っています。

角野さんの物語は少年少女にもたくさん読まれています。子どもが読むという点で、気を付けていることはありますか?

大人は日常の生活に追われて、見える世界にばかり心を奪われがちですが、子どもは違う。

この二つの世界を自由に行き来しながら生きている存在なのです。

私は5歳で母を亡くしてから、見えない世界と親しくなりました。

向こうにも世界があって、こっちを見ているかもしれない。

心が充たされないときは向こうの世界を想像して、遊びに行く楽しみを覚えました。

そして、その経験が物語を書く楽しみにつながっています。

言葉の意味ばかりに頼り過ぎると、物語は次第に貧弱になっていくような気がします。

だから、言葉の意味よりもときめきを大切にして、見える世界の価値観で物語を書かないよう心がけています。

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収納棚には旅先で出会った雑貨や頂き物など、捨てられない宝物が並ぶ。

物語に救われた少女時代。一生楽しく書き続けたい

――昨年は、「児童文学のノーベル賞」といわれる「国際アンデルセン賞」を受賞されました。しかも日本人では3人目の快挙。いまの気持ちをお聞かせください。

大好きなことをして、世界中で読んでもらい、こうして認めてもらえたことは大きな喜びです。

物語は私が書いたものであっても、読んだ瞬間から読んだ人の物語になり、その人の中で生き続ける。

私自身も母を亡くし、過酷な戦争の中で物語に慰められ、生きる勇気を与えてもらいました。

そういう意味でも、この賞は私にとって特別な意味を持っています。

―今年9月に発売された角野さんのエッセイ集の帯にも、「84歳の今も、私は現在進行形」というフレーズがありました。今後の夢を教えてください。

来年で作家生活50周年を迎えますが、一生書き続けることが夢ですね。

いまも、『魔女の宅急便』特別編の3作目を楽しく書いています。

また、来年は新聞で1カ月間、童話の連載が決まっていて、私の戦争体験を描いた『トンネルの森 1945』の続編も書き始めます。

物語は想像力を育み、その人の世界を広げてくれるもの。

そう信じて、これからも毎日書き続けます。

あの有名人の波乱万丈体験記が。『わたしの体験記』記事一覧はこちら

 

児童文学作家
角野栄子(かどの・えいこ)先生

1935年、東京・深川生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て24歳からブラジルに2年滞在。その体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、70年作家デビュー。85年に代表作『魔女の宅急便』を刊行し、舞台化、アニメーション・実写映画化された。

81yns4Ecj+L.jpg『「作家」と「魔女」の集まっちゃった思い出』

(角野栄子/KADOKAWA)

国民的人気作『魔女の宅急便』を生み出した児童文学作家が、優しさとユーモアにあふれる日々をつづったエッセイ集。「国際アンデルセン賞」の作家賞受賞スピーチも完全収録。著者のイメージカラーである「いちご色」と、魔女の使いといわれる「黒猫」をあしらった、漫画家・松本大洋による装画も話題の一冊。

この記事は『毎日が発見』2019年12月号に掲載の情報です。

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