「体にいいとかは全く無視して生きてきましたよ」97歳の作家・佐藤愛子さんインタビュー

定期誌『毎日が発見』の新年恒例の「90代現役」。今回も、一つのことをずっと続けられてきた方にお話を伺いました。自然体で生きてきた方の言葉をお手本に、新しい年も有意義に過ごしたいですね。第1回は「毎日、原稿用紙とにらめっこ。書くことが好きなのね」とおっしゃる、97歳の作家・佐藤愛子さんのインタビューをお届けします。

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マグロみたいに止まらず回遊してきた

去る、11月に97歳のお誕生日を迎えられた佐藤愛子さん。

いまなお執筆活動をされ、不定期ながら女性週刊誌に連載ページを持っていらっしゃいます。

「娘に言われたことがあって、お母さんはマグロだから、止まる時が死ぬ時だって。そう言われればそう。楽しいとかではなくて、とにかく回遊している人生だったことが、幸せだったと思うの。私は、享楽的なことに対する欲望がないんです。だから表現するということ、書くことが楽しい」

執筆は、朝10時ごろから始め、午後3時ごろまで。

「若い時のようにスラスラ書けないんです。女性週刊誌の連載は原稿用紙7枚の分量で、月1、2回ですが、毎日書いているんですよ。ただ、5枚ぐらい書くと、ヘトヘトになるから、明日、2枚書いて渡せばいい、と思ってやめる。翌日読むと原稿が気に入らない。それを捨てて、また一から書くの。

まだ5枚ぐらい書くとヘトヘトになる。翌日、また気に入らない。それの繰り返し。8月はひどかったの。たった7枚書くのに、新しい100枚綴じの原稿用紙を全部捨ててしまって」

と、楽しそうに話される様子は、そんな書き方を楽しんでいるようにも見受けられます。それでは、健康法は?

「体にいいとかは全く無視して生きてきましたよ。それというのも野口整体(被治療者自らの力を引き出して健康な状態へ導く健康法)を38歳の時から今日までずっと続けていて、いまも週に1回治療に通っています。野口整体は、自分が食べたいと思うものは、その時に体が欲しているものだから、それを食べれば良いという教え。薬や栄養剤を飲んでいると、本能というものが磨滅してしまう。だから、薬は飲まない方がいいんです」

体の声を聴いて、97歳。2階に住む娘さん一家とは生活は別。自分で食事を作り、一人暮らしを続けています。

「私はむやみに声が大きい上に早足なので、人さまは皆、元気だとお思いになります。書く仕事はもうつらいのだけれど、遠慮なく頼まれる。それがオーバーワークになっているんです。先日もいきなりめまいがして廊下で昏倒しましてね。仰向けにダーンッと倒れて床に頭を打ち付けた音は我ながらすごいものでした。でも病院へ行くと、やれ検査だ入院だってことになるので、頭に保冷剤をのっけていたら治りました。

11月5日は私の誕生日で、97年も生きると友人知己もそれなりに増えたので、祝賀の電話やらお花やらがたくさん来ましてね。あいにくお手伝いさんが休みの日で、娘も孫も出かけていたので、私は一人でピンポンが鳴ると表の門まで走り、電話に走りして一日を過ごしているうち、ヘトヘトの極みになって、お祝いをもらいながらムカつくという申し訳ないことになりました。

昏倒したのはその翌日です。以前、『九十歳。何がめでたい』という本を書きましたが、『誕生日。何がめでたい』というのを書きたくなりました」

お誕生日の日を思い出され、大笑い。書くことを楽しみ、食べたいものを食べる、それが健康の秘訣かもしれません。

撮影/齋藤ジン

 

作家・佐藤愛子(さとう・あいこ)さん
1923年、大阪府生まれ。69年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、79年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』で菊地寛賞、15年『晩鐘』で紫式部文学賞受賞。17年旭日小綬章を受賞し、エッセイ集『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーに。近著は『気がつけば、終着駅』。

この記事は『毎日が発見』2021年1月号に掲載の情報です。

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