歌人・伊藤一彦先生が紹介する「短歌のじかん」。今回は「若山牧水みなかみ紀行短歌大会」での入賞作品について紹介してくださいました。
若山牧水は旅の歌人として知られています。
その牧水が2度も出かけたのが、群馬県のみなかみ町で、名湯の多い地として知られています。
実は、牧水は温泉好きでした。
去る11月17日、そのみなかみ町で「若山牧水みなかみ紀行短歌大会」が開かれました。
若い歌人の小島なおさんと私が選者を務めました。
よい作品が多く寄せられましたので、「一般の部」の入賞作品を紹介します。
君の背に「好き」って書いた
あの夏の貝殻ひとつ
さよなら ごめん
――北海道 後藤明美
正面切って言えなくて、背中に「好き」と書いた思い出の夏の貝殻というのがいいですね。
でも、その思い出をもう捨ててしまおうというのですね。
さらに、「さよなら ごめん」というのが深く味わえる言葉ですね。
上陸を果たしたばかりの幼蛙
畦(あぜ)草刈れば一斉に跳ぶ
――群馬県 桑原謙一
幼い蛙がぴょんぴょんと跳ぶのが目に見えるようですね。
「上陸」の大仰な語が面白いです。
作者は愛情をもって眺めているのがとても分かります。
元気でがんばれよというのでしょう。
心が明るくなります。
わが慕ふキーン氏に続き
夫逝きぬ
願はくば連れ立ちて黄泉路(よみぢ)を
――神奈川県 蓮見孝子
ご主人はドナルド・キーン氏の人と文学を愛していたのですね。
キーン氏と夫と「連れ立ちて黄泉路を」の祈りと願いが感動的。
「中学生・高校生の部」の入賞作品も紹介します。
日本一我が県貫く水色の
服は大きく袖は多く
――利根商業高等学校 髙橋陸仁
何を歌った作か分かりますか。
河川の規模が最大級の利根川を「水色の服」に見立てたのがすばらしい発想ですね。
たくさんの支流を「袖」にたとえたのも巧みです。
利根川に対する誇りが伝わります。
<今月の徒然紀行18>
私は群馬県みなかみ町を幾度も訪れています。
夏も行きましたが、牧水がみなかみ町を旅した季節の晩秋のころが多いですね。
今回もそうでした。
谷川岳はもう雪をかぶっていました。
そして、上越新幹線の上毛高原駅で降りて、短歌大会の会場にむかっていたら、谷川岳の方角に美しい虹がかかっていました。
地元の人に聞いたら、朝は雨だったそうです。
かつて牧水が泊まった谷川温泉は有名です。
この温泉は伝説によるとコノハナノサクヤヒメが人々にもたらしてくれたものだそうです。
谷川温泉にある富士浅間神社に、その由来が詳しく記されています。