井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。12月は「一対の言葉を効果的に」というテーマでご紹介します。
雪吞みて雪吞みて海蒼くなる 大橋敦子
12月に入ると、いよいよ一年が終わるという感慨が湧き、にわかに周囲が冬らしい風景に彩られるように思えます。
この句は、冬の海に降りしきる雪を捉えて、海が雪を吞むと 海を擬人化。
しかも「雪吞みて」 を繰り返し、一対にすることで、とめどなく降り続ける激しい雪を強くイメージさせます。
白い雪を吞み続けて、いっそう蒼くなる海。
美しくも切なく、情感溢れる作品です。
作者は1924年、福井県生まれ。父の創刊した「雨月」を継承、主宰。
冒頭の句を収めた「勾玉(まがたま)」で現代俳句女流賞を受賞。
2014年没。享年89。
飴の鳥飴の馬冬あたたかき 中村与謝男
12月ごろに咲くのは、「柊の花」や「枇杷の花」。
どちらも白い花が甘い香りを漂わせる、冬の季語です。
この句は飴細工を詠んで楽しい作品。
「飴の鳥」と「飴の馬」を一対にしたことで、ほかの動物をも想像させます。
昔は縁日などには、器用に鋏を使っていろいろな動物を手早く作る飴細工職人さんがいて、子ども達に人気でした。
「冬あたたかき」が一句の世界を包み込んで、日溜まりを思わせる句です。
作者は1959年、京都府生まれ。「幡」同人。俳人協会新人賞、滋賀県出版文化賞を受賞。「中村与謝男集」よりの一句。