「ばぁば」の愛称でおなじみの鈴木登紀子さんは、現在、現役最高齢の料理研究家。94歳になったいまも、NHKの「きょうの料理」などの料理番組で活躍しています。先日、新刊『ばぁばの100年レシピ』も刊行した鈴木さんに、その輝きの秘密を教えてもらいました。
いまも料理教室を月10回仕事は元気の源
ご自宅に伺ったこの日も、2人のお弟子さんとともに朝9時から料理をスタート。テキパキと指示をしながら、春の献立を作ってくださいました。
「料理教室があるときは、いつもこんな感じよ」と登紀子ばぁば。実はいまも、月に10回、料理教室を開催しているのです。
自宅キッチンで料理の手順をテキパキ指示しながら味見中のばぁば。その回転の速いこと!「料理は脳を活性化しますよ」と笑顔です。
「昔から通ってくださっている生徒さんがたくさんいるから、やめられないの。霜月、師走のお稽古はおせち料理を23品作ります。毎年同じ。でもお料理って、同じものを作るから味が決まっていくのですよ。
日本は旬が巡ってくるでしょ。その旬の食材を生かしながらまず最初にお出しする料理が、あえもの、酢のもの、おひたしです。これらは、いわば日本のサラダ。あえ衣や合わせ酢は、ドレッシングなのよ。朝はおみそ汁。夜はお吸い物、煮物、焼き物。旬のこうしたお料理ができたら、食卓はとても豊かになりますよ」
霜月・師走の料理教室のメニュー。おせち料理23種が、登紀子ばぁばの美しい毛筆でしたためられています。
立ちっぱなしで口も手も動かしながら、キッチンを動き回る登紀子ばぁばのなんとお元気なこと。
「まだまだ、やりたいことがいっぱいよ! いまは仕事は元気の源。この11月に新しい本を出したのも、伝えたいことがいっぱいあるからなの。例えばお箸の使い方。私の料理教室では、最初のお稽古はお箸使いです。お箸使いがきれいだと『様子がいい』と母が言っていましたが、本当にそうですよ。お箸で挟む、切るが上手にできず、食いちぎるような食べ方になったら、美しくないですよ。それと、食卓には"お取り箸"も必要よ。いまは使うご家庭が少なくなったようですけれど、"〝直箸(じかばし)"は禁物。お箸が使えるようになったら、器のことも勉強します。最近は、器に正面があることを知らない人もいるのよ」
輪島塗の合鹿(ごうろく)椀。「漆の器をもっと使いましょう。日本の文化よ」
みんなにもっと使ってほしい調理器具は、「結婚したときから40年使って、これは2代目」という煮魚や湯豆腐に便利なアルミ製の平鍋(写真手前)とざる。「特にお米を洗うざるは便利(写真奥下段のざる)。ご飯がおいしくなります」
さすが、ばぁば。勉強になる話が次々に飛び出します。料理教室でもこの講義が大人気。講義と料理の手元に集中してもらうため、メモを取らないのが決まり事なのだとか。
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取材・文/丸山佳子 撮影/工藤雅夫