2021年の新刊から不朽の名著まで、「毎日が発見」連載陣ら11人が推薦する「年末年始に読みたい良書33選」。今回は作家、ドイツ文学者の中野京子さんが薦める「視野を広げてくれる本3選」をご紹介します。
【前回】料理研究家の谷島せい子さんが薦める年末年始に読みたい「ひとり時間を楽しむ本」3選
【最初から読む】医師、作家の鎌田 實さんが薦める年末年始に読みたい「生き方を見つめなおせる本」3選
中野京子さんが薦める「視野を広げてくれる本」
(1)『東京23区凸凹地図( 高低差散策を楽しむバイブル)』
皆川典久/監修 昭文社 2,200円(税込)
東京地形散歩のお供にぴったり
(2)『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』
J.D.ヴァンス/著 光文社 1,980円(税込)
(3)『そして誰もいなくなった』
アガサ・クリスティー/著 ハヤカワ文庫-クリスティー文庫 1,034円(税込)
(1)は昨年暮れに発売されたばかりの最新版。
地図とはいえ、古道や暗渠や坂のスポット紹介もあり、読み物としても面白い。
本書の新機軸は、低地、高地、平地などが色分けされて3D化し、鳥になった気分で東京を俯瞰できること(東京には名前のある坂が850以上もあるのだとか!)。
見ていて飽きないどころか、いまや毎日この地図を頼りに近所を散策し、道の凹凸を実感しています。
(2)は、著者の半生記であり、アメリカの知られざる一面を語る貴重な肉声だ。
ヒルビリー(田舎に住む白人貧困層)として生まれた彼が、いかにしてその絶望的境遇から抜け出し、アメリカンドリームを実現できたか。
正直、前半は驚きを通り越して読むのが辛くなるほど悲惨だった。
日本も安穏としてはいられない。
格差の固定化と無力感をどう防ぐかが、これからの大きな課題だろう。
(3)は疲れた時の温泉代わりのクリスティ。
何度も読んでいるので犯人はわかっているのに、それでもやっぱり面白い。
人間心理に通じた作者は、読み手の思考までも先回りしてトラップをかけてくる。
取材・文/オフィス・エム(寳田真由美)