ある日、頭や背中、わき腹などの、体の左右どちらかの皮膚にピリピリした痛みを感じた後、赤い班や小水疱(水ぶくれ)が出てきた...急にそんな症状が出現したら戸惑うものです。実は、これが帯状疱疹(たいじょうほうしん)の典型的な症状。加齢や過労、病気、旅行に出かけて疲れがたまった時などに、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが再び活動し始めて起きる病気です。帯状疱疹の特徴や治療法、後遺症、他の病気との見分け方などについて、宇野皮膚科医院院長の漆畑先生にお話を聞きました。
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発症部位によって合併症は異なります
帯状疱疹では「疱疹後神経痛」にならないように気を付ける必要がありますが、ほかにも注意すべき合併症があります。帯状疱疹が発症した場所によって、起こりやすい合併症も異なります。合併症はすべての人に出るわけではなく、ウイルスの量や患者の年齢、神経の強度、皮膚の状態などによって症状が異なります。おもな合併症を説明します。
○ラムゼー・ハント症候群(耳帯状疱疹)
顔の下半分、特に耳の部分に帯状疱疹ができると、難聴、めまい、耳鳴り、顔面神経麻痺などを起こす可能性が高くなります。これを「ラムゼー・ハント症候群」といいます。この病気を発見した神経内科医の名前にちなんでつけられた名称です。日本以外の国では「耳性帯状疱疹」と呼ばれています。
「ラムゼー・ハント症候群」は、片方の耳や耳後部の帯状疱疹ですが、疱疹が出る数日前から痛みや耳鳴り、ふらつきを感じます。その段階で受診して、抗ウイルス薬、ステロイド薬などの治療を早期に始めれば、神経の損傷を少なく抑えられるため、ラムゼー・ハント症候群を阻止できる可能性が高まります。しかし疱疹などの皮疹がなければ診断はできず、その段階での治療は難しいと言えます。顔の片側に顔面神経麻痺が残ると、顔の筋肉がうまく動かなくなり、笑った表情などが不自然になります。リハビリに1年以上かかることが多く、完治が難しいこともあるので、耳の疱疹と痛みに気が付いたら、すぐに受診することが大事です」と漆畑先生。
ほかに、口の中の片側に口内炎に似た疱疹が出ることがあります。この場合は味覚障害が残る可能性があるので、やはり早期の治療が重要です。
○眼合併症
鼻や鼻筋などに帯状疱疹が出たときは、目の合併症に注意します。よく起こるのが、目の痛みや異物感、網膜の充血などの症状が出る眼瞼結膜炎(がんけんけつまくえん)です。ほかにも、目の黒目の部分の炎症である角膜炎や、目の痛みや見えにくさを感じる虹彩毛様体炎(こうさいもうようたいえん)などが起こる可能性があります。早期に治療を始めることが必要です。
○運動麻痺
まれにですが、帯状疱疹から運動麻痺が起こることがあります。手足の筋肉、お腹の筋肉、まぶたの動きに関連する筋肉などに麻痺が起きて、しびれたり動かしにくくなったりします。
陰部やお尻の帯状疱疹では、膀胱の神経が麻痺して排尿障害が起こることも。腹部の帯状疱疹では、便秘になることもあり、症状が重いと腸閉塞を起こすケースもあります。症状が現れたらすぐ医師に相談して、薬による治療を受けましょう。
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取材・文/松澤ゆかり