ある日、頭や背中、わき腹などの、体の左右どちらかの皮膚にピリピリした痛みを感じた後、赤い班や小水疱(水ぶくれ)が出てきた...急にそんな症状が出現したら戸惑うものです。実は、これが帯状疱疹(たいじょうほうしん)の典型的な症状。加齢や過労、病気、旅行に出かけて疲れがたまった時などに、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが再び活動し始めて起きる病気です。帯状疱疹の特徴や治療法、後遺症、他の病気との見分け方などについて、宇野皮膚科医院院長の漆畑先生にお話を聞きました。
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水ぼうそうウイルスが数十年後に帯状疱疹を引き起こします
子どもの頃に「水ぼうそう」にかかったことがある人は多いのではないでしょうか。水ぼうそうは、「水ぼうそうウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)」が原因で起こります。感染力が強いウイルスなので、空気感染によって周りの人に次々とうつっていくことが多い病気です。
水ぼうそうは5歳ぐらいまでの幼児がかかりやすく、感染すると通常、1~3週間ほどの潜伏期間を経て発症。全身に赤い斑点が出て、強いかゆみを感じます。それと同時に、熱が出たりのどが痛くなったりすることも。赤い斑点は1~2日で小さな水疱(水ぶくれ)に変わり、やがて黒っぽいかさぶたとなって快方に向かいます。小水疱が出てから1週間ほどで完治する場合が多いのですが、大人が感染した場合は重症化することもあります。
水ぼうそうにかかった人は体に免疫が作られます。そのため水ぼうそうに2回以上かかることはまずありません。しかし水ぼうそうが治ったからといって、ウイルスが死滅したわけではないのです。ウイルスは体の中で密かに生き続けています。
「水ぼうそうにかかると、体中のあらゆる皮膚が水ぼうそうウイルスに感染します。ウイルスは全身の皮膚の、目に見えないほど小さな毛穴を取り囲んでいる知覚神経に侵入し、ほぼ全身の『神経節』という部分に潜んで、数十年間も静かに生き続けます。神経節とは、神経細胞が集合して結節状になっている部分のこと。普段は体の免疫が見張っているため、ウイルスの活動は抑えられていますが、体の免疫力が低下すると、神経細胞の中に潜んでいたウイルスが再び活性化して増殖しはじめます。そして神経を傷つけながら皮膚の表面まで到達して、『帯状疱疹』の症状が現れるのです」と漆畑先生。
帯状疱疹を発症させているのは、水ぼうそうと同じウイルスなのです。水ぼうそうにかかった人は、ウイルスに対して免疫を持っているので、通常はウイルスの活動は抑えられていて帯状疱疹が発症することはありません。このウイルスを活性化させてしまうおもな原因が、加齢や免疫低下、ストレス、がんや膠原病などの病気です。水ぼうそうにかかったことのある人なら誰でも、これら原因によって帯状疱疹を発症する可能性があるということを知っておきましょう。
●「水ぼうそう」から「帯状疱疹」を発症するまでの流れ
1 幼少期に水ぼうそうのウイルスに感染
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2 水ぼうそうを発症する。
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3 水ぼうそうが完治しても、全身の神経節にウイルスが残っている。
↓
4 体の免疫の働きでウイルスの働きは抑えられている。
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5 免疫力が低下してウイルスがふたたび活性化。「帯状疱疹」を発症する。
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取材・文/松澤ゆかり
漆畑 修(うるしばた・おさむ)先生
東邦大学医学部卒業後、東邦大学医学部大橋病院皮膚科部長、東邦大学医学部客員教授などを経て2007年に宇野皮膚科医院(東京都世田谷区北沢)院長に就任。医学博士、皮膚科専門医、抗加齢(アンチエイジング)医学専門医、温泉療法医、サプリメントアドバイザー。著書に『痛みを残さない帯状疱疹 再発させない単純ヘルペス』(メディカルトリビューン)、『帯状疱疹と単純ヘルペスの診療』(メディカルレビュー社)などがある。