ある日、頭や背中、わき腹などの、体の左右どちらかの皮膚にピリピリした痛みを感じた後、赤い班や小水疱(水ぶくれ)が出てきた...急にそんな症状が出現したら戸惑うものです。実は、これが帯状疱疹(たいじょうほうしん)の典型的な症状。加齢や過労、病気、旅行に出かけて疲れがたまった時などに、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが再び活動し始めて起きる病気です。帯状疱疹の特徴や治療法、後遺症、他の病気との見分け方などについて、宇野皮膚科医院院長の漆畑先生にお話を聞きました。
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再発するかどうかは、水ぼうそうの人と接触する頻度が影響します
2回以上、帯状疱疹にかかる人がいる一方で、水ぼうそうにはかかったけれど帯状疱疹には一度もかからない人もいます。その違いとは、その人の家族構成や生活環境、職種などにありました。それでは例を挙げてお話しましょう。
【一度かかった後に、再発したAさん】
Aさんは60代の男性ですが、ずっと独身で1人暮らをしていました。20歳代の頃に帯状疱疹を発症しています。そのときは、1週間程度で完治して後遺症の「疱疹後神経痛」にもならずに、比較的軽く済みました。それから30年経った50歳代のときに2回目の帯状疱疹を経験しました。
【一度も帯状疱疹にかからなかったBさん】
Bさんも60代の男性ですが、娘が結婚してから娘夫婦と同居しています。孫が2人いて、どちらも幼稚園に通っています。娘夫婦が働いているため、Bさんが孫の世話をしています。孫たちが続けて水ぼうそうにかかったときには、通院の付き添いもこなしました。孫の世話をするのが大好きなBさんです。Bさんは一度も帯状疱疹にかかったことがありません。
この例からも分かるように、水ぼうそうの人とたびたび接触することで免疫が追加され、帯状疱疹にかかりにくくなります。これを「免疫ブースター効果」といいます。少し前の日本では3世代同居があたりまえでした。その頃は、子どもの人数も多かったので、両親や祖父母は、子どもや孫が水ぼうそうにかかることで、免疫ブースター効果を得られたのです。家族と過ごすだけで、自然に免疫を保てる環境だったということです。
職業柄、帯状疱疹になりにくい人もいます。たとえば、保育士や幼稚園の先生、皮膚科や小児科の医師や看護師など、水ぼうそうを発症しやすい乳幼児と接する機会の多い人たちは、免疫ブースター効果を得やすいので帯状疱疹にかかりにくいとされています。
最近はAさんのように、帯状疱疹に一度どころか二度以上かかる人が増えてきました。これまで帯状疱疹は「一度かかると二度とかからない、再発はまれだ」といわれていましたが、近年、再発する人が増えつつあります。それには次の2つの要因が挙げられます。
1つ目は高齢化によってお年寄りの人口が増えたことです。年をとればとるほど免疫力が衰えるために、再発する人が増えているのです。
2つ目は水ぼうそうの流行が減ったことです。もともと帯状疱疹は、水ぼうそうが流行しているときには発症数が少ないという特徴がありました。なぜかというと、水ぼうそうウイルスに接する機会が増えるため、免疫ブースター効果も高まるからです。
「水ぼうそうの流行が減ったことには理由があります。2014年10月から水ぼうそうの予防のためのワクチンが定期接種となったのです。つまり、1歳~3歳の子どもは無料(公費)で受けられるようになりました。それまでは任意接種で有料だったため接種する人がそれほど多くありませんでしたが、定期接種になって接種する人が急増。その影響で、2015年以降は日本では水ぼうそうの流行自体が起こっていません」と漆畑先生。
水ぼうそうウイルスに接する機会がなくなれば、免疫ブースター効果が得られず水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫はどんどん低下してしまいます。近年では、中高年以降に帯状疱疹にかかっても「もう一生かからない」と考えることはできません。5~10年後の再発を覚悟する時代になっているのです。そして、それを予防するには、「水痘ワクチン(水ぼうそうワクチン)」の接種が必須だといえるでしょう。
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取材・文/松澤ゆかり
漆畑 修(うるしばた・おさむ)先生
東邦大学医学部卒業後、東邦大学医学部大橋病院皮膚科部長、東邦大学医学部客員教授などを経て2007年に宇野皮膚科医院(東京都世田谷区北沢)院長に就任。医学博士、皮膚科専門医、抗加齢(アンチエイジング)医学専門医、温泉療法医、サプリメントアドバイザー。著書に『痛みを残さない帯状疱疹 再発させない単純ヘルペス』(メディカルトリビューン)、『帯状疱疹と単純ヘルペスの診療』(メディカルレビュー社)などがある。