突然ですがみなさんは、自分のうんちをしっかり観察していますか?
慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)特任准教授の福田真嗣先生は「うんちの中には、腸内フローラの遺伝子や代謝物質など、あらゆる情報が詰まっています。その情報を基に生活習慣を改めることで、健康を手に入れられたり、健康寿命を延ばせたりする可能性も。そう考えると、うんちには値を付けられないほどの価値があるので、私はうんちを"茶色い宝石"と呼んでいるんですよ」と語ります。
うんちの色やにおい、回数、量をみることで、毎日の健康状態を的確に知ることができるそうです。この記事では、そんな「うんち」のことを福田真嗣先生の解説で学んでいきましょう。
食べた物が「立派なうんち」になるまで
まず私たちが食べたものが立派なうんちになるまでを、おさらいしてみましょう。
1.【口】
食べ物が咀嚼(そしゃく)によって細かく砕かれることで、唾液と混ざり合います。唾液には、アミラーゼという消化酵素が含まれ、この働きにより食べたものが消化吸収されやすくなります。
2.【食道】
口から胃への通り道。ここでは消化吸収は行われません。
3.【胃】
口で細かく噛み砕かれて、アミラーゼが混ざった食べ物をさらに溶かします。胃液には、ペプシンという消化酵素が含まれており、このペプシンによって、食べ物の中のタンパク質の一部が分解されます。胃液は強い酸性なので、この溶液の中では、食べ物の中にいた菌や、付着していた菌の多くは死滅します。しかし、食べ物によって薄まってしまった胃液の中では、菌の一部が生き残り、下部消化管へと流れます。
4.【十二指腸】
胃で溶かせなかった脂肪分はここで処理されます。肝臓から分泌される胆汁、すい臓から分泌されるすい液が食べ物に混ぜられ、脂肪分は乳化されてドロドロに。胆汁に含まれるビリルビンという色素により、うんちはそれらしい色になっていきます。
5.【小腸】
食べ物が早く通過する前半部の空腸、食べ物がゆっくり通過する後半部で回廊状の回腸からなる全長6~7mの消化吸収管があります。十二指腸でドロドロになった食べ物の栄養素の多くはここで吸収されます。
6.【大腸】
大腸は、前半部の結腸と後半部の直腸からなります。結腸はさらに上行(じょうこう)結腸、横行(おうこう)結腸、下行(かこう)結腸、S状結腸からなります。この大腸で、いよいようんちが完成。小腸で消化吸収されなかった水分、食物繊維などが運ばれてきます。上行結腸で水様状、下行結腸で水分が吸収されて半流動状となり、S状結腸で固まり、直腸に至るころには引き締まったうんちになります。
毎日続けたい「うんち」の観察
うんちをチェックする際のポイントは、色、形、におい、回数、量。うんちの色は、黄褐色っぽいものが健康的。食べ物がうんちになるまでの間に、胆汁が正常に分泌され、その後の過程で血液など別の色のものが混ざらなかった証しといえます。形は水分量によって異なります。
水様状のうんちや軟便と一緒に、ぽろぽろと日焼けした皮がむけたようなものが排せつされた場合は、腸内環境があまりよくない状態というサイン。原因は主に脂肪の取り過ぎで、消化吸収しきれなかった脂肪が常温で固形化し、便として排せつされているのだとか。
一方、硬い便もいい状態ではありません。色も黒っぽく、大半は便秘状態。発酵食品や食物繊維の多い雑穀類、整腸作用のあるヨーグルトなど、腸のバランスが整う食生活を心がけましょう。
●押さえておきたい「うんちのタイプ」チェックポイント
便の色は【何色?】
うんちの色は大腸の通過時間でおおよそが決まります。通過時間が短いほど明るい黄色で、長くなるほど黒褐色に。黄褐色から茶褐色までは、健康な便と考えて問題ないでしょう。
便の【形は?】
水分量70~80%で、バナナ状の形をした便が1~2本程度スムーズに出て、肛門を拭かなくてもいいくらいが理想的。水様状ではなく、半練り状と思えるぐらいはそれほど心配ありません。
便の【においは?】
朝いちばんのうんちに、いままで体験したことのないにおいを感じたら要注意。前夜にお酒の飲み過ぎや揚げ物の食べ過ぎがあれば、原因は飲食したものの可能性が高いので様子を見て。食生活に原因が見つからないときは、体調不良のアラームかも。
なお、洋式トイレに排便をすると、大きさや硬さにかかわらず、たまっている水に浮く場合と沈む場合があります。水に浮くうんちは、繊維質を多く取っている証拠。豆類やイモ類などの不溶性の食物繊維を多く含むものを食べると、腸の中のガスや空気を抱え込み、便のかさが増し、ふわっと水に浮くように。また、排せつの頻度は、少し多い分には心配ありません。ただし、少ない場合、具体的には3日以上排せつがない場合は便秘気味といえるので、腸の健康を意識した生活の改善が必要です。
毎日セルフチェックを続けることで、自分のベストなうんちを知り、スッキリ、心地いい快便生活を手に入れましょう。
【うんち健康診断チェックリスト】
まずは、自分のタイプを押さえましょう
バナナうんち
バナナ2本分ぐらいの黄褐色~黄土色のうんちは健康の証しです
カチカチうんち
色は黒っぽい茶色で、硬め。便秘が続くとこんな状態になりやすいです
コロコロうんち
うさぎの便のような硬いうんち。ストレスがたまっているかも?
ネットリ半練りうんち
色は黒っぽい茶色でネットリ。肉をたくさん食べた後に出やすいようです
ドロドロうんち
下痢のときのうんち。長く続く場合は、病院で診断を受けましょう
水様状うんち
このうんちが出たら要注意。感染症の疑いがあるので必ず病院へ
【注意】こんなうんちは病のサイン!?
赤いうんち
多くは出血で、痔か大腸がんの可能性が。痔の場合、便表面に血が付着するのが大半。血液がマーブル状に混じる場合は大腸がんの心配も。
緑のうんち
青汁など野菜ジュースを飲んでいないのに緑色の便が出た場合は、肝臓に問題が起きている心配が。続く場合は専門医の診断を受けましょう。
黒いうんち
最も多いのは便秘です。万が一、タールのような黒さの便が出た場合は、大腸がんによる出血の可能性が考えられるので早めに受診を。
水様状うんち
水分が主体のジャーッと出る便(下痢便)は、感染症の疑いが。長期間続いたり、下痢と便秘が繰り返し起こる場合は専門医に相談を。
本記事を参考にぜひ今日から、自分のうんちを観察してみましょう。
<教えてくれた人>
福田真嗣(ふくだ しんじ)先生
腸内環境研究者。慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任准教授。(株)メタジェン代表取締役社長CEO
1977年、茨城生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科を卒業後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より現職。2015年より科学技術振興機構先駆け研究者、2016年より筑波大学医学医療系客員教授、2017年より神奈川県立産業技術総合研究所グループリーダーを兼任。