対人関係など、強いストレスによって引き起こされると思われがちなうつ病ですが、実は幸せなライフイベントの中にも、発症の引き金が隠れている場合があります。自覚がないまま症状を悪化させてしまうと、命に関わる事態を招くことも...。そこで今回は、杏林大学名誉教授の古賀良彦(こが・よしひこ)先生に「うつのサイン」についてお聞きしました。
あなたは「うつ」になりやすいタイプ?
【セルフチェック】
□ 習慣だったことができなくなった
□ 無口になった、ぼーっとしていると言われることが多くなった
□ 好きなことに対しての興味が薄れてきた
□ 体に不調が出るが、病院では異常がないと言われる
□ 死んでしまいたいと思うことがある
典型的なうつ病になりやすいのは真面目で几帳面なタイプです。このタイプの人が、毎日の習慣や仕事が思うようにできなくなり、睡眠障害を伴うようになった場合には、うつ病の発症を疑いましょう。思い当たることがあったらメンタルクリニックで受診を。
深夜の目覚め
睡眠障害に潜むうつ
雲が垂れ込めて日差しが遮られる梅雨の季節に、気分が落ち込むという人がいます。
身体的にも、低気圧の影響で頭がズキンズキンと痛み、めまいなどで体を思うように動かせないと、気分の落ち込みに拍車をかけます。
そんな症状の陰に潜むのがうつ病です。
「うつ病は、一般的に対人関係などによる強いストレスで引き起こされると思われがちです。しかし、子どもの結婚や新居への引っ越しなど、本来は幸せなライフイベントをきっかけに発症することがあります。ご本人は気付かないまま進行し、梅雨に症状を悪化させてしまう人もいるので注意が必要です」と古賀良彦先生は警鐘を鳴らします。
うつ病は、もともとなりやすい傾向を持つ人が、何らかのストレスをきっかけに発症することが少なくありません。
他人から見れば幸福なライフイベントも、知らぬ間に本人にとってはストレスになっていることがあるのです。
「うつ病は、加齢に伴い発症しやすくなります。典型的な症状は、気分の落ち込み、意欲の低下、体や思考を動かす気持ちのブレーキです。めまいなど自律神経症状を伴うため、更年期障害や認知症と間違われることもあります」と古賀先生は説明します。
うつ病は、気分の落ち込み以外に、更年期以降の世代ではイライラすることが目立つようになります。
自律神経症状のめまいや耳鳴り、頭痛などが伴うと、更年期障害の症状と似ているため、勘違いされやすいのです。
一方、思考にブレーキがかかるような症状もうつ病にはあり、他人から何か質問されても、「うー」「あー」などといって即答できないことがあります。
そのため、質問を理解できないと誤解され、認知症と疑われてしまう人もいるのです。
「うつ病は心身にさまざまな症状が現れます。放置すれば悪化の一途をたどり、場合によっては、命に関わる事態を招くこともあります。しっかり治療を受けて治すことが重要といえます」と古賀先生は話します。
自律神経の症状は、更年期障害でも起こりやすいのですが、「睡眠障害」が続くようならば、うつ病の疑いがあります。
ただし、年を重ねると「なかなか寝つけない」といったことも起こりがちです。
ようやく眠りについたと思ったら、午前1時や2時に目が覚めて、それ以降は眠れない。
このような寝つきが悪いばかりでなく、中途覚醒・早朝覚醒があれば、精神科を受診しましょう。
早めの受診がうつ病の治療では大事なことです。
「うつ」になると、こんなことが起こります
身体的症状
・頭痛
・耳鳴り
・動悸
・食欲不振( または過食)
・味覚障害
・性欲低下
・下痢または便秘
・肩こり
・めまい
・腹痛、胃の不快感
・睡眠障害( 不眠、過眠)
自律神経の乱れによって上記の症状が強く、精神的な症状が目立たない場合を「仮面うつ病」と称します。
精神的症状
・気分が落ち込む
・意欲がなくなる、無関心になる
・ぼんやりすることが増える
・悲観的に考える
・喜んだり、悲しんだりできない
・口数が少なくなる
・外見、服装を気にしなくなる
・集中できない、ミスが増える
・飲酒量が増える
特徴的なのは憂鬱な感情障害で、やる気が出ないなど意欲の低下も伴います。また、思考にもブレーキがかかるのが特徴です。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史