「ボケ」じゃなくて「うつ」なの?認知症より怖い「老人性うつ病」の見分け方

年齢を重ねるとだんだん気になるのが、親や自分に訪れる「認知症」の可能性。ですが、ボケてしまうことよりもっと怖いのは、「老化に伴ううつ病」だと老年精神科医の和田秀樹医師は言います。そこで、和田医師の著書『「脳が老化」する前に知っておきたいこと』(青春出版社)から、老いを迎える前に知っておきたい「心の老化」と「老い支度」について連載形式でお届けします。

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ボケより怖い「うつ病」

ボケ、認知症とは異なる「心の老化」で、とくに気をつけたいのが「うつ病」です。「心の老い仕度」としては、むしろこちらのほうが大切です。

うつ病は、「心の風邪」とよくいわれます。

そう呼ばれるほど、だれもが発症する可能性がある「心の病気」です。ただし、「心の風邪」という言葉の響きほど「軽い病ではない」こともしっかり知っておく必要があります。

うつ病は、放っておいてよくなるものではなく、「こじらせるとリスクが大きい」という点で、「万病の元」といわれる風邪と共通点があります。軽いからといって放置していい病気ではありません。

とくに高齢の人のうつ病は、認知症と勘違いされたり、放置されたりしがちで、気をつけないと大問題につながるのです。

うつ病についての誤解や偏見もまだまだあるので、本人も、家族をはじめとする周囲の人も、うつ病についてきちんと知っておくべきことがいろいろあります。

いちばんの問題は、「うつ病が原因で自殺する人」がかなり多いということです。欧米での推定では、自殺した人の約70%は、うつ病にかかっていたと見られているのです。

ほんの数年前まで、日本では「年間3万人超」の人たちが、さまざまな理由で悩みを抱たあげく、自殺の道を選択していました。しかし、その後の対策によって、自殺者は減少しています。

この自殺者数の減少には、何かと評判が悪い、かつての民主党政権が自殺対策を行ったことが影響したといわれています。

民主党政権のときに、うつ病対策として、「お父さん、眠れてる?」というポスター告知を展開するなど、「うつ病の疑いがあれば早期に医者にかかる」ことを推奨したのです。

その結果かどうかははっきりとはわかりませんが、2012年に「日本人の自殺者数が15年ぶりに3万人を切った」という報道がありました。「不眠」が、実はうつ病の症状の一つだということを強調した結果ではないかと思います。そして現在では自殺者数は2万1000人を切っています(2018年)。しかしながら、自殺者が年間3万人を超えていた14年間で、約45万人が不本意な死を選んでいたのです。

昭和のバブル崩壊後の長期不況が影響したとも思われますが、「自殺者、年間3万人は異常」という指摘があっても、これといった対策を講じなかったそれまでの自民党政権の無策ぶりは、大問題だったと思います。

不眠がうつ病の症状だと知らせること、そして、うつ病が疑われたら医者にかかること、ほかの症状が目立たない、軽症のうちにうつ病を治しておいたほうがいいこと、放っておくと、脳が変化して非常に治りにくくなること......こうしたうつ病の真実を知っておくことが大切です。

うつは早く対応すればよくなる

最善の「うつ病対策」は、とにかく「早期治療」すること。これが、私がこの本でうつ病対策としていちばん訴えたいことです。

ただし、老人性うつ病の場合は、一般にイメージされるうつ病の症状である「気分の落ち込み」や「自責感」が増すといった状態にならないことが多いので、この点にはとくに注意が必要です。

認知症とは違って、うつ病は急に発症し、不眠に代表される「睡眠障害」や「食欲障害」を合併することが多いのが特徴です。

家族が「認知症を発症しているのでは」と思って高齢者を病院に連れてきたら、認知症ではなくうつ病だった、ということが高齢者医療の現場ではよくあります。

60代くらいの初老期の場合、日常生活でどこか意欲がなくなって、外出や着替えをしなくなったうえに、記憶力などが衰えたために、まわりから「ボケた」と思われている人の7~8割が、うつ病の可能性が高いのです。

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感情が老化することでも似たような症状が表れますが、きちんと医師が診断すれば、ボケ、認知症か、うつ病かはだいたいわかります。ところが、高齢者を専門とする精神科医の数があまりに少ないので、統計では全国で140万人から150万人はいるのではないかと推定される高齢者のうつ病患者の多くが、適切な治療を十分に受けられていません。

これが、「高齢者の自殺率の高さ」につながっていると私は考えています。全自殺者の4割以上は高齢者という推計もあります。

うつ病は治療できるものなので、多くの高齢の自殺者が、早期治療によって早まった「選択」から救われるはずです。

心のボケさえ防げば人生は楽しめる!「脳が老化する前に知っておきたいこと」記事リストはこちら!

「ボケ」じゃなくて「うつ」なの?認知症より怖い「老人性うつ病」の見分け方 81kwzHhD-4L.jpg序章から4章にわたって老化と心の関係、対処法について解説。幸せに年を重ねる方法論が分かります

 

和田秀樹(老年精神科医)

1960年、大阪府生まれ。国際医療福祉大学心理学科教授、川崎幸病院精神科顧問、和田秀樹こころと体のクリニック院長。東京大学医学部卒業後、東京大学附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー等を経て現職。老年精神科医として、30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。

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『「脳が老化」する前に知っておきたいこと』

(和田秀樹/青春出版社)

年を取れば、もの忘れはあって当然――30年以上にわたり高齢者医療の現場にかかわる老年精神科医がまとめた、最後まで人生を楽しむ「心の老化」対策本。親や自分のボケを心配するよりも、もっと大切な「心の老い支度」を始めませんか?

※この記事は『「脳が老化」する前に知っておきたいこと』(和田秀樹/青春出版社)からの抜粋です。
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