ウトウトしたのに、夜中に目が覚めて、朝までぐっすりと眠れない。そんな不眠を年のせいだからとあきらめてはいませんか? 睡眠の量と質が低下すると、日常生活に支障が生じるケースが目立つようになります。そこで今回は、杏林大学 名誉教授の古賀良彦(こが・よしひこ)先生に「快眠に役立つこと」についてお聞きしました。
【前回】目覚めがスッキリしないのは年のせい? 「不眠症」セルフチェックと「不眠」4つのタイプ
女性ホルモンの減少で不眠に拍車がかかる!?
不眠に悩んで医療機関を受診すると、「精神生理性不眠」と診断されることがあります。
うつ病などの病気ではないのに、眠れない状態が長く続きます。
「国内で満足に眠れないと訴える人の約半数は、精神生理性不眠と考えられています。閉経以降の女性に多く見られる傾向があり、ホルモンバランスの崩れやストレスなども関係します」と古賀先生。
睡眠リズムと生体リズムは、車の両輪のように一体になっています。
過度なストレスで交感神経が優位になると、寝つきが悪くなって睡眠リズムが乱れます。
すると、睡眠中に優位に働くはずの副交感神経にも悪影響を及ぼします。
寝つけない→睡眠リズムの乱れ→自律神経の乱れ→睡眠リズムの乱れ→生体リズムの乱れにつながり、それを閉経後の女性ホルモンの減少が後押しするのです。
「閉経後に女性ホルモンが急激に減少すると、自律神経のバランスは崩れやすくなります。もともと精神生理性不眠の傾向があった人は、その症状を悪化させてしまうのです」と古賀先生は説明します。
よく眠れずに日中の眠気も感じれば「もっとよく寝なければいけない」と考えるのが一般的です。
でも、そう考えれば考えるほど脳が興奮して眠れなくなります。
睡眠を妨げるストレスなど、原因への適切な対処が重要です。
「日々のストレス発散が大切です。コロナ禍の従来と異なる生活でストレスが多くなりやすいですが、新しい生活スタイルを見つけて、快眠につなげましょう」と古賀先生。
快眠に役立つのは少し夢中になれること
コロナ禍で生活環境が変わった方は少なくないでしょう。
緊急事態宣言などで地域のサークル活動は休止になり、外出自粛で買い物や友人との会食も難しくなりました。
趣味や気晴らしの機会が減る中で、以前は出勤していた夫がリモートワークになったために、生活のリズムが変わってしまった人も。
コロナ禍以前と異なる生活で、ストレスを感じやすくなっているのです。
「睡眠リズムや生体リズムを整えるには、早寝早起き1日3食の生活が大切です。規則正しい生活を心がけ、ちょっと夢中になれることに30分程度取り組んでみましょう」と古賀先生はアドバイスします。
手軽なストレス発散法として、近年、アロマ、ぬり絵、切り紙、折り紙などが注目されているそうです。
指先を使ってちょっと夢中になれることは、リラックスにつながります。
アロマもリラックス効果のある香りや、気分が高揚する香りなど、種類によっていろいろな楽しみ方があるそうです。
「夫が自宅にいることがストレスならば、掃除を頼むなど、うまく夫を使うことを考えましょう」と古賀先生。
料理は脳を活性化し、ストレス発散にも役立つので、パートナーにすすめてみても良いでしょう。
また、家の中でできるボードゲームなどをしてストレス発散することも一助になります。
ただし、それでも不眠が続くようならば医療機関へ相談を。
熟睡を取り戻しましょう。
《精神生理性不眠って何?》
「眠れない」「熟睡できない」などの症状があっても、原因となる体や心の病気は見られず、睡眠リズムなどが乱れて眠れない状態のこと。
ある日の眠れない状態をきっかけに、睡眠リズムや生活リズムが乱れ、自律神経のバランスを崩してしまいます。
良い睡眠のために覚えておきたい4つの習慣
【運動】適度な疲労感が快眠への道
夕方から寝る4時間ぐらい前までにウォーキングなどの軽い運動をすると、寝るための入眠スイッチが入りやすくなります。
【食事】規則正しく&バランス良く
睡眠リズムを正すには生活リズムを整えることが大切です。そのリズムに役立つのが1日3食バランスの良い食事です。
【寝室の環境】さまざまな工夫で快眠を演出
スマートフォンは寝室に持ち込んでも開かず、ほの暗い照明、落ち着いた色のカーテンや寝具など、快眠演出の工夫を。
【入浴】ややぬるめのお湯にゆっくりつかる
寝る2時間前までに、38~40度のお風呂にゆっくりつかると、リラックスして入眠しやすい身体状態に導くことができます。
その他に
パジャマに着替えて歯磨きをするといった自分なりの「入眠儀式」を毎日行いましょう。
《薬で治療するなら》
医薬品には、医師の処方が必要な医療用医薬品と、薬局・ドラッグストアなどで購入できるOTC医薬品(一般用医薬品)の2種類があり、睡眠薬・睡眠導入剤は医療用医薬品、ほとんどの睡眠改善薬はOTC医薬品に分類されます。
●睡眠薬・睡眠導入剤
寝つきだけを改善する「超短時間作用型」や、朝までぐっすりの「長時間作用型」などさまざまな種類があります。
●睡眠改善薬
アレルギー治療で使用される抗ヒスタミン薬の強い眠気を逆手にとって睡眠改善薬として開発された薬です。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史