おしっこトラブルは老化現象なの? 病気なの?/頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方

放っておいても治らない。大きな病気がないか、一度受診を

加瀬さん「これまで昼間は外出したときにトイレの場所を必ず確認したり、それも面倒になってなるべく家にいたり、夜も1回起きるくらいだから放っておいても別にいいかなと思っちゃって......」

高橋先生「放っておくと外出をためらったり、人と会うのが億劫になったりと、徐々にQOL(生活の質)が落ちてしまって、毎日が楽しくなくなってしまいますよ。それに、頻尿や尿もれの多くは、放っておくとだんだん悪化してしまうんです」

加瀬さん「確かに、好きな旅行に誘われても、近頃はあまり気乗りがしないし、うつうつとしているときもあります。しかも、放っておくと悪化するんですか!」

高橋先生「そのままにしておいて治ることはありませんから、きちんと原因を探って正しく対処していくことが大切です。頻尿や尿もれは、家で今すぐ始められるセルフケアでよくなる方も多く、最近ではよく効く薬もあります。ほとんどのケースは、それらで改善されますよ」

加瀬さん「少し安心しました。きっと年齢のせいと言われるかなと受診を少しためらっていましたが、来てよかったです。夫も一緒に来ればよかったですね」

高橋先生「外出しないと体を動かさなくなって、筋力や体力が衰えてしまいます。また心配なのは、頻尿や尿もれが重大な病気の症状となっている場合があるということ。頻尿は、膀胱がんや前立腺がんが原因ということがありますし、尿がチョロチョロもれてしまう溢流性尿失禁は骨盤臓器脱という症状でも起きることがあります」

加瀬さん「骨盤臓器脱?」

高橋先生「読んで字のごとしで、出産や加齢によって膀胱や子宮などが垂れ下がってきて、ひどい場合は膣から臓器が出てきてしまう症状です。股間に違和感があるので、自覚症状はあると思います。女性の尿もれの大きな原因にもなっているんです」

加瀬さん「出産経験はありますが、その自覚症状は幸いないです。でも、50歳を過ぎると前立腺がんが増えると聞きますし、尿もれについても夫にそれとなく聞いてみて、あるようなら受診したほうがいいですね」

高橋先生「そうですね。医療機関を受診すれば、そうした重篤な病気がないかどうか、はっきりさせられます。どんな病気も早めに発見できれば、早く対策を打てて、よくなるのにも時間が短くてすみますからね」

尿を十分にためられない過活動膀胱の疑いあり

加瀬さん「私は元々、それほどトイレが近くはなかったんですが、そもそも頻尿になってしまった原因は何でしょう?」

高橋先生「頻尿の原因はさまざまありますが、主なものとして過活動膀胱があります」

加瀬さん「過活動膀胱ってなんですか?」

高橋先生「膀胱に尿を十分にためられない病気です。通常なら150~200ml程度で尿意を感じはじめ、約300mlほどで『トイレに行かなくちゃ』となる最大尿意に達します。それが過活動膀胱になると、尿をためられないので少しの量で最大尿意に達してしまい、がまんできないほどになります」

加瀬さん「症状は、突然のがまんできない強い尿意なんですね。私の場合はそこまでの感じではないです」

高橋先生「他にも、感染症のひとつである急性膀胱炎が原因の頻尿もあります。この場合は、排尿時に痛みがあり排尿の終わりに尿道に不快な痛みを感じます。女性は急性膀胱炎になりやすいんです」

加瀬さん「娘が子供の頃にトイレをがまんしすぎて、膀胱炎になったことがありました。投薬治療ですぐよくなりましたが」

高橋先生「膀胱や尿道には問題はないものの、何らかのストレスや失禁への不安などの心因性による頻尿もあります」

加瀬さん「では、夜トイレに起きてしまう原因は何ですか?」

高橋先生「夜間頻尿の主な原因は、夜の尿量が増える夜間多尿、過活動膀胱や前立腺肥大症などで膀胱の柔軟性が失われてしまって、少ない尿量でも尿意を感じて目が覚めること、睡眠障害によって眠りが浅くなったために尿意で目が覚めたと錯覚する、の3つで、複合的なこともあります」

加瀬さん「夜の尿量が増えるっていうのは、どういうことでしょう?」

高橋先生「シニアが夜トイレに起きてしまう原因で一番多いのは、夜間多尿なんです。それは日中の水分のとりすぎが要因になっていることもよくあるんです」

加瀬さん「夏は熱中症対策もあるし、血がサラサラになるから、体のために水分はとったほうがいいんじゃないですか?」

高橋先生「水分をたくさんとると血がサラサラになる、というのは根拠がありません。1日の水分摂取量の目安は、食事以外で1000~1500ml。お茶やコーヒー、紅茶などのカフェイン、アルコールは利尿作用がありますから、たくさん飲めば尿量も増えますよ」

加瀬さん「私はコーヒー好きで、夫の場合は、毎日の晩酌が原因なのかも......」

高橋先生「考えられますね。その場合は生活習慣の改善でよくなる可能性があります。ただ、尿トラブルのリスクは、加齢とともに大きくなりますし、前立腺肥大症や睡眠障害のケースもあるので、一度お二人で受診してみてはどうでしょう」

 

高橋 悟(たかはし・さとる)
1961年生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授、日本大学医学部附属板橋病院病院長。群馬大学医学部卒業。虎の門病院、東京大学医学部泌尿器科助教授などを経て現職。2003年には、天皇陛下(現上皇さま)が入院された際の担当医師団も務める。悪性腫瘍から排尿障害、尿失禁まで、泌尿器に関わるあらゆる疾患を研究、診察している。

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※この記事は『全国から患者が集まる泌尿器科医の 頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方』(高橋悟/毎日が発見) からの抜粋です。
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